揺らぐ幻影


  私のこと、

  なんも思ってない、から


バレンタインの日、赤い顔をした近藤に期待した。

考えている、その一言に救われた。


勘違いだった。


渡り廊下で話したことに特別な想いなんてなくて、

挨拶は挨拶以上になっていなくて、メールはただの暇つぶしで、

笑ってくれたのは気のせいだ。


思い込み、自意識過剰、自惚れ、愚かな自分による期待が今、苦しめる。


好きになってくれない。


『好きなら頑張れば両思いになれる』のプラス思考は駄目だったのかもしれない。

頑張らなければ良かった、そうすれば悲しくなかった。


一生懸命になってしまったから、片思いが楽しかったから、近藤が笑顔だったから、

思い違いをしてしまったのかもしれない。


  私なんか……

  私なんか好かれる訳ない

構ってちゃんは人を苛々させる天才だ。

つまり嫌われ者の結衣は、あんな魅力的な男子に慕われるはずがない。

高い塔に住む彼が、自分を卑下する醜い女をわざわざ選びやしないだろうに。


どうしてバレンタインの手作り品を食べてくれたのか、どうして電話をくれたのか、

どうして立ち話に付き合ってくれたのか、どうして展覧会に招待してくれたのか、

総合的に考え、甘い予感に間違いはないはずだと思っていたけれど、

どうやら生温い結衣は都合よく受け取っていただけで見当違いだったようだ。


多少は好かれている――と。


これでは散々否定してきた鈍感という名の無知ガールの仲間ではないか。

恋愛経験が乏しいせいで、意味ないことを深読みして浮かれていただけじゃないか。

THE夢見がち自惚れ女。
現実を把握する能力が欠落していただけだ。


『嫌われていない』と、『好かれていない訳ではない』は、似ているようで全く違い、

前者に該当する結衣は、少なくともシュガードリームを見る資格なんかなかったのだ。

愚かな自分が嫌になる。


凹む分、切ない分、悲しい分、泣きたい分、それが過信の量で、

きっと湯舟から溢れ出してしまう。

排水溝に流れるお湯みたいに、恋心が消えてしまえたら楽なのにリアルの世界には通用しなかった。


…‥