揺らぐ幻影




輪郭が危うい乙女心は不安定だから、どんなに一人を想っても、

弱さに揺れて流れ着く先が清潔だとは限らない。


  ……好き

  好きなのに、

どうしてこんなことになってしまったのだろうか。

白い肌には涙のように汗がへばりついて気持ちが悪いけれど、拭うことさえ面倒だ。

後悔なんてしたくなくて、喉の奥に張り付いた痛々しい声を飲み込むのが精一杯、

この恋を選んだのは結衣で、この状況に導いたのも結衣、

ならば悔やむことはしたくない。


掴みたいのに手応えがなくてさまよう指先は、己の皮膚に食い込むだけで、

お遊戯会の時のように男の子は手をとってくれないらしい。


これは汗、涙なんかじゃない。
泣き声なんかじゃない、咳だ。

勢い任せて悲劇のヒロインを熱演できない。


輪を描く湯舟で半身浴中の結衣は、ぼんやりとしていた。

まっすぐな髪、柔らかな素顔、ピアスのない耳、着飾らない体、

ありのままの自分をあの人は後数日で好きになってくれるならミラクル、

ホワイトデーまで余裕がないのに、何も出来ずにいる。


時々髪をいじるのが面倒で、軽く櫛で梳くだけで終わらせたくなる。

たまにメイクをするのが煩わしくなり、スッピンで過ごしたくなる。

病院でピアスホールを開けた時は痛かったし、重たくて欝陶しいから塞ぎたくなる。

オシャレは楽しいが、不意にあほらしく思う節がある。


どうして結衣が頑張るのか近藤洋平は分かっていない。

好きだからじゃないか。

なぜ連絡をくれないのかと腹が立つ分、女子高生らしく切なくなる。

お風呂にまで携帯電話を持ち運び、仕事中も授業中も手放せないでいる現代っ子が居ることをシカトしすぎだ。

一言、彼がアクションを起こしてくれたなら、静香なんて気にならないのに、また頑張れるのに今は無理だ。


楽しく話して、楽しく笑って、楽しく時間を共にして、

近藤が当たり前に静香とつるむから、勇気なんてなくなっていくばかりだ。

たった一言くれたなら元気になれるのに、嫉妬に疲れたら悲しくなる心境をちっとも分かってない。

違う、分かろうともしてくれない。


女子力ゼロの結衣がどうして切なくなる。
涙が何になる。