揺らぐ幻影


なんでどうでもいい奴を相手に、愛想を振り撒けているのだろう。

なんで好きでもない、むしろ苦手なタイプの男子に、ニコニコと相槌を打てているのだろう。


微妙に処世術を知っている結衣は、きっと生意気で可愛くない。


こういう時の決まり文句『カワイイ』は、社交辞令だと頭で変換するのが普通の女子高生、

そうではなく褒め言葉だと素直に受けとり、顔を真っ赤に黙り込んでしまえるキャラクターこそ、

男の子がほっとけない女の子なのかもしれない。


うぶな子が羨ましい。

そんなピュアガールの神経は、一般的に高校生をやってきたらありえないとされ、

世間知らずというより、合わないと一歩引かれる存在の子になるだろう。


ただ、十五年間生きてきてその手の女子に出会ったことがないし、聞いたこともないが、

友達にはなりたくないとだけは分かる。


そういうことを読める結衣が嫌だ。

そしてまた、ある程度八方美人に振る舞う恩恵を知ってしまっている性格も嫌だ。


「ノリ悪いなぁ、ガードかたい?」

「えー? あははー、私B専なんでー、はは」

休憩時間だから失礼しますと、愛嬌のある子を演じていた結衣もさすがに事務所へと退散した。


週間売上トップテンに入る辺りのヒット曲が流れる店内は明るいので、夜らしさがない。

メニュー以外は一年中変わらず、四季がない空間。


  、好き

携帯電話を開くとYのストラップが揺れて、三人で撮ったプリクラの待受画像が現れた。

ぽこりんという文字を目にしただけで、好きで好きで今すぐ会いたくなる。

寝癖のようなニュアンスヘアに覆われた顔は、いつだって真っ直ぐな目をして意志が強そう。

ミントの香りだって思い出してしまうし、笑った時の八重歯だって浮かぶし、

皮膚を揺らす低い声だって聞こえてきそうだし、

結衣は近藤が好き。


こんなに執拗に想っている彼女は、彼に聞いてみたいことが一つある。

静香と居る時に、一秒でも田上結衣のことを考えたことがある?


どうして同じ分だけ好きになって貰えないのだろう。

自分が想う半分でも考えてくれたらいいのにと我が儘な願いを叶える気がない夜空は、

分厚い雲に奪われてしまっていた。