揺らぐ幻影


なぜ泣いたのか謎だ。


中高を振り返ると、授業中に突然号泣しだす女子が居なかっただろうか。

たいてい恋愛絡みで、しとやかに涙する少女はたちまち教室を舞台に主役となる。

付添人として仲良しの子が抜擢され、廊下に連れ出すよう先生に配慮される。


事件が休み時間だとしたら、『見るんじゃないわよ』的な台詞を仕切りキャラ女子が言い、

取り巻きたちが壁となり、ヒロインを囲い男子から守ったりする。


感情を抑えられないことをさらけ出しても受け入れてくれる仲間がいるのは、そこそこ素晴らしいことで、

そんな一連の流れは青春めいており、卒業した後だと切なくなる思い出と化す。

その雰囲気は学生の頃にしか味わえない財産であろう。



「泣き芸?」
「女優?」

ただ例外もあり、結衣に限り友人は優しく包み込まずに相変わらずの調子で茶化す訳だ。


「アタシ結衣が好きだよ、独りで泣かないで、話なら聞くよ、だってウチラ親友じゃん?」

愛美は暗記シートを畳み、胡散臭く微笑んだ。


「結衣、我慢せずにアタシら頼ってよ、何の為の友達なの?」

里緒菜はノートをしまうと、営業臭くはにかんだ。

それはそれは有り難いお言葉で友情テスト満点に値するのだが、

可愛いげのない捻くれガールズたちには通用しない魔法の呪文だったりもする。


「やぁーだー騙されんよ、嘘泣きですからー。あはは」

ぶりっ子演技だと結衣は笑い飛ばした。

あの涙の理由は正直説明できない。
気が付いたら泣いていると注目されていたのだ。

ミステリーだ。深く考えることは面倒なので片思いマジックとして放置しておこう。


「もー、今は友情に感謝して泣くとこだよ?」と友人①が、「ほんまそれ、空気読めよ結衣ー」と友人②が台本を合わせるので、

「空気読め言う奴が空気読めじゃんかー」と結衣が言うのがベスト、

二人と居ると楽しくて幸せ。笑える今が嬉しい。


嫉妬は勿体ないじゃないか。

例えば廊下を近藤が静香と歩いていたのは見ないふりをしたらいい。

意識するからいけない、現実逃避も立派な作業だ。

だって目の前に居る友人はテスト勉強よりも親友を優先してくれている。

愛をわざわざ見落としたくない。