揺らぐ幻影


なぜ上手くいかないのか。

早起きが楽しみだった頃の明るいテンションに今更戻れない。

勇気も活力もゼロ、手持ちの札は無気力だ。


  ……。

近藤という愛おしい人。
変なあだ名を付けて、メルヘン痛い玩具で接点を狙って、空回り気味に挨拶をして、

内容の薄いメールをして、明日には忘れるお喋りをして、

バレンタインに想いを伝えた。


本当にあの頃は無敵だった。
努力に比例して自信を作ることが可能だった。

そう、毎日頑張ることが嬉しかった。
努力した分だけ好きな人に好かれていく手応えがあったからだ。


だって聞いて。最初は姿を見るだけで結衣は何もできなかった。

それが愛美と里緒菜が協力してくれるようになり世界が変わった。


おはようをくれた、笑ってくれた、名前を呼んでくれた、メールをくれた、チョコを食べてくれた、

人を好きになる幸せをくれた。
自分を好きになれた。


たくさんくれた癖にあんまりだ。

結衣にとっての大切なプレゼントたちは、近藤側だと粗大ゴミだったのだろう。


昔は一日一日に充実感があって、女子高生をしているという満足感があったのに、

彼が居ない世界はがらんどう。


襟足を伸ばすことがモットーな男子、明るいカラーリングがイケてるらしい女子、

眉毛が細すぎることに気付かない奴、前髪の分け方が野暮ったい惜しい子、

不必要に襟を広げてワイルドアピールする男、ポッケから覗かせたブランド財布がステータスな女、

個性的な生徒に溢れた教室、当然そこに存在するのは学年末テストよりも恋愛で頭がいっぱいな愚かな人物だ。


一年間女子高生をして得たものは何?

授業の暇潰しの仕方? アルバイトの両立? 勘違いオシャレ? 狭い世界で生きる素晴らしさ?

近藤の彼女というポジションを獲得しなければ、一年間何をしていたのか分からない。

嫌われたくない、好かれたい、それなのにこれ以上嫌われるのが怖い。

例えば彼にとっての結衣がどっちでもなかったらどうなる。

そう、好きでも嫌いでもなく、無。
何も影響力がない女などドキドキしないしイライラしない、そんな立ち位置は望んでいやしない。

静香が嫌い、邪魔だ。
そんな結衣が嫌い、醜い。