揺らぐ幻影


それからは積極的に仕事に勤しんだ。

いつも喫煙席のピンポンは気付かないフリをしてなるべく他のスタッフに譲っていたけれど、

今日はサボらずに頑張って我慢し、

灰皿にあんまり触りたくないが、ちゃんと小まめに交換してあげた。


ちなみに、結衣が禁煙派の理由は、服や髪に臭いが付くし、お部屋だと空気が悪くなるし、

健康に良くなさそうだし、お金がかかるし――つまり近藤はノースモーキングではければならない。


そして、赤ちゃんを可愛いと持ち上げて親御さんを喜ばせたし、ギャルのグループに髪型が綺麗だと褒めて気分良くさせたし、

なかなか優秀な店員だったと自己満足をほざけるのではないだろうか。


人は恋愛をしたら、以前よりも社会に貢献できる気がするため、

愛しの彼パワーは日常生活に役立つのだと信じたい。



赤株の甘酢漬けが食べ頃になった証拠のような色をした丸が空を染める。

夕焼けはなぜランドセルの時代を蘇らせるのか。

消え行く太陽を見ると無性に切なくて胸が苦しくなる。

皆もそのはずだ。訳を考えてみて。

大人になると夜遅くまで働いており、内勤の人は特に外の景色を眺める機会が極端に減る。

遡れば中学は塾、高校はアルバイト、そうやって屋内に居るせいなのかは不明だが、

貴重な瞬間と触れ合えることが年齢に比例して減少し、

だから夕日は必然的に小学生の頃に直結する――赤い太陽がバイバイの合図。

夜が来る前の儚い一瞬、大人になる前の清い一瞬。


自転車の影の周りは茜色、ハンドルをきつく掴む少女は、マフラーを靡かせ家へと向かう。


「ユキちゃーん!」

突然名を呼ばれ、辺りを見渡した。

四斜線の道路、月極駐車場、昭和らしいお茶屋さん、目に入ったのは信号待ちをしている一台の車、

助手席に居る人物に「元気〜?」と、久々の再会にはお決まりの挨拶をするも、

運転手が気になり、「何、彼氏ー?」と、結衣は堪らず口走っていた。


中学の友人はどうやら年上の恋人ができたらしい。

中高は車持ちの彼氏の子が不思議と得意顔だったりする青さに気付くのは、自分が免許を取った時だろう。

どうもと身を乗り出し会釈をする男性の大人具合に、無意識にホッペを染めてしまう。