……、ありえない
「なんで、?」
つい独り言を漏らしていた。
先に休憩をしていた髪の毛を弄っている例の男子大学生が、
携帯電話を胸に抱き満面の笑みを向ける結衣に、「ミー? どした?」と不思議そうに尋ねると、
待ってましたとばかりに、スタッカートのついたお喋りが始まる。
「メールっぽこりんから! きてました!! 今日バイトー?って、朝から弟とDVD借り行ったって。家族サービスなんだーって、晴れのブタ見てるけど一話目笑えるーだって……メール!!」
きゃあっと悲鳴を上げて、いかにも喜んでますと振る舞う姿は、
新しい玩具を買ってもらってはしゃぐお子ちゃまそっくりだった。
ソフトクリームの存在を忘れ、お皿の上で溶かしている時点で子供でしかないと呆れる。
そして、可愛いなと淡いため息を彼は漏らす。
もう高校生なのだから、感情のままを身体で表すなんて躊躇うだろうに、
無邪気に言葉を発することができるのは、恋する乙女の特権だ。
「何ミー、そんな喜んで」と、まるで妹をからかうような大学生の声に、
十五歳の結衣はもっと構ってくれとばかりに歓声を上げた。
「だって! 初めてメールきたんですよ?! 向こうからとか凄くないですか? 幸せですって私!」
嬉しかった。語尾が弾んだ。
好きな人のメールアドレスを登録して約一ヶ月、
近藤発信で送ってくれたのは今日が初めてで、もう結衣は浮かれてしまってどうしようもなかった。
嬉しい
嬉しい嬉しいメール
真っ赤に染まる顔にソフトクリームを塗りたくっても、幸せだと笑えるのだろう。
だらしなく唇を緩めていた。
平和だなと、そんな時代もあったなと懐かしみながら、可愛いと笑う結衣より年上の男に、
惚れないで下さいと茶化した女は携帯電話と一緒に幸せを抱き寄せた。
「頑張れよー? 嫌いな女が好きなDVDなんか見ねぇよ」
こんな風に皆が応援してくれるため、この想いを大切にしたい。
柔らかな言葉を貰えることが嬉しくて、疲労感なんて忘れてしまい、
エプロンを巻き付けると、自称・無敵なウエストレスの誕生し、
欲張りな彼女は、真昼の空に太陽を七つ探せる気がした。



