揺らぐ幻影

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「ミー、早くお皿下げてきて」
「はいっ」

「ミー! 絆創膏買ってこい」
「はい」

「ミーつまみ食いすんな」
「はーい」

ファミリーなレストラン、深夜のオール組が去った土日はお昼前からが正念場で、

下手したら待ち合いのお客さんは駐車場で時間を潰してもらうくらいまでに混んでいる。


というのも、最近向かいの店舗が駐車料金を微妙に値上げしたらしく、

余計にこちらに流れて集中しているらしい。

一番の要因はモバイルクーポン券の割引を始めたせいで、

お客さんの入りが回らなくててんやわんやしていた。

TVの宣伝効果は威力があるのだと、従業員は体感するしかない。


ドリンクバーのグラスを溜め込まれたら足りないと注意され、

ピンポンを連打されると焦るし、名前を書いた書いてないだで揉めるし、

それでも結衣は楽しんでサービス業に徹した。


混雑時はついついキャパオーバーして苛々しがちなのだけれど、

今日の彼女はびっくりするレベルで笑顔を振り撒けていた。


洋食が人気な中で、稀な天丼の注文が入る度に、天ぷら繋がりで近藤が思い浮かび唇が綻ぶ。

恋をすると、些細な場所にあの人が居て幸せだ。


  ふー、

  ……疲れたかも

フリルが可愛いと男女問わず評判の良いエプロンを外し、

結衣はダルダルご褒美と称しソフトクリームにたっぷりとチョコレートソースを垂らした。

舌の上でとろける甘さと冷たさをスプーンで掬えば、絶頂に満たされる。


それにしても、面白い程注文が入る。
近所の公園でフリーマーケットがあった影響だろうか。

学区の中学生たちが騒いでいる声が元気いっぱい響いていて、

ちょっと気後れする結衣だ。


  腕、だる

一人シフトが休みになり余計に疲れるが、以前仮病を使ったので咎められない。

忙しい時は働いている仲間に申し訳なく、

平等に振り分けられた休憩時間を削ってしまうのが人間の性、

今日は七分早めに切り上げようかと思う。


何かメールがないかと携帯電話をチェックするやいなや、目を疑った。


「……なん、で、」

頼りない少女の独り言がこぼれ落ちた。