揺らぐ幻影


近藤は今、テスト勉強をしたいのにメールなんかに時間を割いてくれているのだろうか。

時計の針を一分一万円で止められたとしても、アルバイト代では六分が限界とか、

もしも人が眠らず生活できるなら、睡眠時間全てを彼に使うのにとか、

くだらない妄想をさせ、好きな男子は毎日を焦れったく色づけ、どんどん女子の恋心を成長させる。


《黙れ笑》と彼が一言、彼女も《暴言?笑》と一言、

長く語るのと短文の応答、どちらがより深いのかなど、

対等でどちらにも傾かなず、
本人の捉え次第で、お喋りの中身は輝くらしい。


《田上アウト笑》
《くちびるゲンカ止めよ笑》
《かっちかちのパン笑》
《オマメです笑》
《また肉離れ笑》
《消しゴムの角て笑》

数分で刻まれる短い文章に、結衣は大変胸を高鳴らせた。

全てネタの内容は、もしも波長が違うならニュアンスを汲み取ることは不可能で、

意味不明なやりとりに成り下がるが、

それを面白いと思えるのは、お互いが同じ歩幅でいる証拠だからだ。


一緒の趣味の人を好きになって良かったと、また一つ好きな理由を後付けする。

恋心の質が高まった気がして嬉しい。


《あなた勉強の邪魔。雅にメールして妨害して下さい》

《了解。イッチーを二位にします笑》

邪魔というキツイ言い回しがギャグとして受け入れ合う関係であることが幸せだ。

少し寄り目なあの人がこちらの感性をよく理解してくれていることが最高だ。


《アドレス分かるんならミッションよろしく》

《迷惑メール任せて笑。てか放課後一時間程度トークで邪魔したから褒めてよ》

《わー、いい子。》

《適当。じゃあ任務実行します。おやすみ》

目を瞑ってもメールが打てるようになれば女子高生合格だ。

約束通り市井に三通ばかり送信しておいた。

放課後に加わったばかりの市井雅という名前、備考欄には彼氏の親友と記入しちゃいたい。


恋愛成就の携帯電話を折り畳み、たまには勉強、その日は珍しく宿題をして夜を過ごすことにした。


体育館に暗幕をおろした時に似た空には小さな星が三つ、

いつか星野村に行き、この目で夢を見てみたい。
大好きな人は流れ星、願いを叶えてくれる人。


…‥