大人は気付かないフリが上手くて一人前だ。
疑惑を飲み込み市井による爆笑必須・漫談小話を促すべく結衣が笑ってみせると、
彼はいつも通りの笑顔だったため、やはり彼女の勘違いだった。
「中学ん頃彼女作らなかったらシスコンって言われてね? 友達なのにひどくね? あはは。
シスコンとか嘘だよ。だって彼女居るし。綺麗な。……嘘、俺が田上さんを好き? 無理、絶対嫌だ、はは」
少女が肩を揺らすのを確認し、王子様はお喋りを続ける。
「ウチお金持ちだし贅沢できるよお姫様。はは。生活水準悪くない、養える。財産余って遺産が困るよ。
まあ、結婚は、後一年以上もあるね、……噂だと田上さん軽いらしいし浮気される?」
長話は思わず結衣が噴き出す面白いネタだったことにしよう。
冷ややかな廊下に揺れるのはウサギのお財布の影、
人は皆陰があるという言葉をよく耳にするが、結衣の人生には日なたのみなので謎で、
訳ありな面を第三者が知るのは困難なため、
ちょっとした含みに反応できるのは、主人公レベルが高い暇人少女に違いない。
また知りたい一心で人脈を使い暴くのは、配慮が足りないどころか本当にその人へ思いやりがないせいだ。
自ら物語ると勿体ないと感じる結衣は性格が悪いのだろうか。
背中で語るといった名言はいつ生まれたのだろう。
皆の体験談によると、
普段明るい人が神妙な顔付きで心を許した証拠に昔の秘密を打ち明けると純愛は成立するらしく、
秘密は秘密であるから秘密なのに、
陰ある男に惚れて陰を披露されるのが、清らかヒロインになるパターンらしいが、
結衣はその手法に感動できない気の毒な女であるのは言うまでもない。
よって市井は王子様で、彼女は彼の何かに気付きやしない、あくまで彼は完璧な王子様。
要するに、彼女は彼の何かを共に乗り越え惚れやしない。
そう、誰にも本音を伝えない市井雅こそ結衣の中では完璧な王子様だ。
黙りの美学があると、お姉ちゃん子は信じたい。
むしろ、聞こえない声なら随分前から聞こえているから大丈夫だ。
結衣らしく「お金持ちらしくご祝儀多く包んでね!」と、ガサツな態度で接する頃、
賑やかな校舎上に月が一つ、綺麗に浮かんでいた。



