揺らぐ幻影


周りを疎かにしていた結衣は、市井より、たとえ今ここにいる相手が近藤だとしても、

最初に誰かの声を聞くなら、愛美と里緒菜だと決めていた。

『アタシは親友を大事にしたいの』なんて爽やか友情モードは結衣らしさゼロで偽善臭いため、

ライトなノリで進めようか。


そもそも好きな人が居る時に限り、男友達と親密になることは彼女の性格上ありえない。

恋愛感情がなくても、それが誤解されるような振る舞いに等しいと知ってしまっているせいだ。


そう、結衣が市井に深く関わる場合、

第三者の不快指数アップに繋がる可能性がないとは言い切れない。


短くまとめると、『あんた近藤が好きなのになんで市井にも好かれようとしてんの、たらしウゼ』的に、

好感度が下がるかもしれないという話だ。

綺麗に伝えるなら、近藤を好きな恋心の度合いの正当性が疑われてしまう訳で、

要するに、手広く愛されようとするなという身も蓋も無い理由なのである。


やはり誰かの信頼を得るには日頃の行いの積み重ねだから、

利己的な結衣は市井を救うヒーローにはなれない、なりたくない。

だって近藤に男好きだと幻滅されたくない。


結衣は結衣だから変えられない。
このらしさが本物なのか偽りなのか分からないけれど、

素か演じるかを選ぶのは本人なのだから、結局いつも自分らしいのだ。

本当の自分とか仮面とか、どっちにしろ本人には違いないのにくだらない。
市井は市井、結衣は結衣じゃないか。


「私の扱い悪くない? あはは、私だって王子がお婿さんとか嫌だー」

暗がりの廊下には笑い声があがる。それを選択したのは結衣だ。


忘れていやしないだろうか。

彼女はもしも市井が前述のように複雑な環境で育ったと打ち明けようモンなら、

心打たれて泣けない女なのだ。

そう、ピュアガールとは違い白けてしまう愚か者のタイプで、

過去を乗り越えた偉業なんぞ自白されると、不幸自慢するなとツッコミたくなる残念な価値観で、

素直ではない故、あえて探らないし市井に何かあっても泣けないし、聞きたくない。


仲良しだからこそ言える愚痴、苦労話や過去の栄光、今より古くなった会話よりも、

明日に繋がるお喋りが好きだ。