揺らぐ幻影


放課後、二人きり、高校生、以上三点が揃えば青春モノのお約束が女子高生らしく成立する。

手始めにアタッカー・熱血のように、

結衣と市井は階段に腰掛けるなりして、時間が経つのを忘れるくらいアツく語り合うべきだ。


何より今、目の前に居る少年は同級生一のイケメンかつ好きな人の親友という絶好ポジションなのだから、

むしろ彼が深い話をしやすいよう、結衣自らしんみりしたムードを誘うべきだ。


するとセオリー通り重たい話が繰り広げられるだろうから、

見た目とは異なる彼の心を知ることになり、辛いことを乗り越えた強さに感動し、

聞き役の彼女は無意識に涙を流すべきなのだ。


  ……。

机六つ分空いた距離、後退する市井が単純に気になり、結衣は堪らず目線を逸らした。

今しなければならないことは何?
人の気持ちを見落としてきてばかりだった自分がしなければならないことは何?


内容はなんでもいい、不治の病の恋人が居るとか親が離婚していたとか、

家族の誰かを事故で亡くしたとか本人が元・暴走族だとか、とりあえず劇的な要素を聞き出せたら乙女スキル百点だ。


今しなければならないのは、市井の唇から本音を聞くこと?

恋愛モノの女子は性格が良いせいか知らないが、とりあえず男子に心を許されて一人前らしいので、

ここは結衣も近藤と付き合った際のリハーサルとして市井を理解しておきたいところだ。

仮面を剥がして素を見せてもらえるのが乙女の特権らしい。



「市井くん、って……」

気が付いたら結衣は再び王子様を見つめてしまっていた。

綺麗な目は狡い。何もしていないのに責められている気分になる。


「あの、市井くん」


なんとかしてあげたくなる。
皆の前で自分を偽っているであろう市井を助けてやりたくなってしまう。

話を聞いてあげたくなってしまう。
役に立てなくても傍に居てあげたくなってしまう。


今しなければならないことは、市井を支えてあげること――――







――――なんて、嘘。

そんなヒロイン気取りたくはない。

そう、市井を深く知ることは、座右の銘が浅薄な彼女の役目ではなく、

単純、結衣は結衣だから結衣のままだ。