揺らぐ幻影


輪郭が奪われ始め、子供らしさが失われていく風景に虚しさしかそぐわない。

辺りが闇に染まり顔が見えなくなる今、輝くのは二つの光り。


市井は近藤と結衣を懐かしむように見つめていることに自覚はないのだろうか。

吸い込まれるような無垢さ、赤ちゃんのような希望に満ちた輝き、

その甘い目を本当は知ってしまっている。

姉の千依にそっくりだ。
疲れた丸は、『若いって良いね』と自分を我慢する形をしている。


ああ、それに気付いてしまってはいけない。
結衣の特徴は人を不快にさせる鈍感さなのだから、

今になり、日常生活で見落とす些細過ぎる透明に近いピースで感づくのは間違いだ。

それは非現実的なお話、そうだったはずじゃないか。

例えば初めて一夜を過ごした恋人が居て、訳ありヒロインが黙って逃げ出しあてもなく走り、

どこか知らない場所でひっそりと涙を流していると、

神懸かり的な直感かなにか知らないが、とにかくタイミング良く黙ってヒーローが現れそっと抱きしめるくらい、

夢のような綺麗なことだ。


どんなことにもドラマチックに気付けないことが普通ならば、勘違いだ。

これはただの気のせいだ。

もしも結衣の洞察力による冴えが当たっていたなら、この物語は急変、

愚図でどうしようもない主人公は、とても良い子ちゃんになってしまうではないか。

それは違う、そんな奇跡は要らない。


過去とか絶望とか昔とか不幸とか虚無感とか、考えてみて。

ただの女子高生には、深い傷もないし悔やむ過ちもない。

小学校も中学校も楽しかった。
雪女とからかわれたり運動会でリレーのバトンを落としたり、ちょっと嫌な記憶もあるが、

それもまた笑える昔話、

つまり、人を信じられないと塞ぎ込まないし、未来なんてと諦めたりしない。


単調に生きてきた三流の彼女には、シリアスで壮絶なストーリーは似合わない故に、

市井に何かしら陰があるなら、たちまち物語が胡散臭くなる。

全部、嘘。
空想なだけ、大丈夫。

市井は王子様だから彼の物語はめでたしめでたしハッピーエンド、

姉は婚約をしているのだからバージンロードを歩いて幸せ家族、

起承転結に波瀾万丈、ヘビィな啓示は流せばいい。