揺らぐ幻影


対・人って難しく、皆に好かれるキャラクターを心掛ける八方美人は、

仲良くなればなるだけ、本音が見えなくて距離を感じてしまい、

何を考えているのか掴めず、徐々に嫌な奴だと変化しがちだが、

逆に言えば心は明かさないという分かりやすい性格な訳で、認めるとはっきりする。


立ち振る舞いに優れた人を否定する者は、理解する力が足りない奴だ。

そんな見解の結衣自身、大人びている事実に本人は気付けておらず、結局お子様となる。


「えとね、流してね? 田上さん図々しいくらいに自分が相手の隣に行きなよ?

眼中ない奴の気配りなんか向こうに響かないよ。厚かましいくらいが良いよ、あはは。見習うのは一昔前のオバタリアン?」

冗談混じりでも真面目な内容だと、恋愛感情がなくとも気になってしまう。


この期に及んで失礼だが、大塚になら何も感想を抱かないのに市井は違う。

それだけ好きな人の友人は、結衣の人生に重要な登場人物として君臨しているのだろうか。


ゆるい抑揚の癖に、しっかりと胸に届いた。
近藤が隣に来るよう仕掛けるのではなく、自分が隣に行かなきゃと刻めた。


「近々。彼女として紹介されるから待ってて? ナルシスト田上です」

応援してくれる皆のためにも頑張りたい。

恋愛は二人の物だと思っていたけれど、たくさんの人の想いの上にあるから大事に向き合わなければと強く誓った。


己を守りたいからだろう、頭のどこかで冷静でありたいと、

自尊心を客観視という言葉にすり替えて、

恋愛に嵌まらないよう引いている結衣が居て、

いざという時に傷が浅くて済むよう保険をかけておくのは、きっと悪い癖だ。

もっと乙女心を堪能する方がメリットがあるのかもしれない。


お礼だとオレンジのキャンディーを渡すと、「田上さん羨ましい、一生懸命とか馬鹿みたいで俺はムリ」と、

市井は意地が悪そうに微笑み、

「迷惑だったら警察呼んでるから、はは」と、恋する結衣が言われたら喜ぶお喋りを続けた。


文字のままに受け取った少女は、素直に嬉しい。

結衣に好かれることを近藤が幸せだと思ってくれるなら本望だ。

皮肉混じりに応援してくれる市井雅は、やはり彼女にとっては完璧な王子様でしかなかった。