いつもパーソナルスペースを排除して至近距離に居る人は、
どういう訳か机四つ分の空白を保ったまま微笑んでいる。
クラスメートの話が本当だとしたら、普通の異性なら人気がない時こそ傍に寄り添うチャンス、
そこをあえて引いている王子様に、結衣の見解は間違っていないだろうと過信した。
市井はわざと結衣の相手になってくれた。
だから二人に何もないのに、女子に羨ましがられてからかわれるし、
男子に笑われるし、大塚に勘違いされているんだと思う。
もしも近藤の名前だったら、噂に怯えチョコを渡せていやしないだろう。
また彼は一歩、下がった。
全体がよく見える。
「田上さんってまあまあ乙女に痛いでしょ? 結婚願望ある?」
ふわりとした声はピアスが輝く耳に嵌まる。
突拍子もない発言に、夕日よりも真っ赤に染まるホッペ。
四時半を過ぎると廊下の電気は用務員さんが消して回るので助かった。
でなければ、空を燃やす太陽よりも炎を思わせる程染まった顔に気付かれてしまう。
、やだ照れる
付き合ってないし、
冷静に鎮火させたいのに、近藤を想うとますます炎上してしまう。
手の甲でなんとか熱を吸収しようとするも、爪まで恋をしているので無意味だった。
「洋平が羨ましい。テスト、バイト俺シフト削れないし」
相変わらずニコニコと笑われたら、からかいなのか激励なのか迷う。
お喋りの意図が読めないからと、混乱するだけではいけなくて、
今は多分、結衣が里緒菜や愛美のようになる番だと妙な使命感を覚えた。
恋をして知ったのは大人力、話すばかりではなく、時には聞き役にならなくてはと学んだ。
自分の本音を隠して相手を気遣う必要があること知った。
、なんか
逆光に吸い込まれる彼は、真っ黒の髪が本来よく似合う気がしたし、
故意に黒髪を消しているような印象を受けた。
『短い髪が似合いそう』、『染めた方がかっこよさそう』、
そんな風に中学の頃から男子生徒の鑑定ばかりして遊んできた結衣は、
明らかに彼は黒髪にした方が今の数倍モテるだろうと分かったため、
きっと、あえて魅力を隠すために明るい色にしてダサくしているのだと知る。



