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とうの昔に昼の世界は去り、空を支配するのはお星様で、
月明かりは香水の瓶を太陽に翳した時の光りの筋に似ている。
怖いくらい綺麗だ。
ふわふわのお花たちが漂う自室で、結衣は毛先に洗い流さないトリートメントを気力で浸透させまくっている。
市井……
市井雅、彼の瞳は王子様と呼ばれるだけあって、元から甘い色だ。
ただ結衣は知っている。
彼のあだ名は揶揄だ。
顔も頭も運動神経も性格も言動も人気も引くぐらい完璧で、
女子は皆お熱、何につけても騒いだ。
モテ男にありがちな態度――女を嫌悪して避けないし、女を軽視して遊ばない――もう高校生、対人関係ってモンがあり、
そんな自分本意な態度を取れば、たちまちバッシングされかねないのが教室で、
上手に振る舞えて普通だ。
だから前述のように極端ではなく、市井はノーマルに笑顔で対応するせいで、
女の子はイケるんじゃないかと錯覚してしまいがちなのだが、
予感は間違いで、本人にその気はゼロ、
よって一定の距離が縮まることはない。
厭味から付いたあだ名。
世界が違う人、手が届かない人、だから王子様――なんて捻くれた結衣の勝手な解釈のため、
単純にパーフェクトボーイだから王子様なだけで、深い理由はないのだろう。
しつこく少し続けせてもらうなら、女の子って残酷だ。
男の子が振り向いてくれないなら、向こうに非を押し付ける一面がないとは言い切れない。
そして田上結衣。
彼女だってそれなりに常識はある。
つまり、人並みに知識はある。
甘い瞳をしたあの人は、たまに大切な女の子を見つめるような表情を作る。結衣にだけ特別な視線を送る。
皆に平等に接する王子様は、結衣に限って糖度が高くなっていると思わなくもない。
そう、この少女は純情ミラクル鈍感ガールではないので、市井の変化に気付かない訳でもない。
噂になりえる要素は彼の瞳にはあった、と。
――が、だからこそ分かることがある。
あれは幻で、本当の目付きではないのだと察してもいた。
そもそもマドカ国の王子様が愛するお姫様は予め決まっており、
言い伝えを破って結衣を好きになるセオリーがない。



