揺らぐ幻影


今欲しいのは身体が得る快楽ではなく、お喋りから伝わる快哉で、

結衣が話せば近藤が笑い、彼が話せば彼女が笑う、そんな時間が快感で宝物で、

さしあたり彼の笑顔で宝探しをしているだけで充分に楽しいのだ。


幼稚と言われたってそれが幸せなのだから、どうしようもないじゃないか。

ああ、この感情は何なのか。
誰か共感してくれやしないだろうか。

結衣が望む恋バナは『目が合った』、『おうどんに七味かけてた、辛党かな?』、

微笑ましい類いでハッピーなのに、

皆が話したがるのは、何回したとか何時間したとか、なんかそんなのばっかりで、

もしかすると結衣は女子高生として、価値観がおかしいのだろうか。

お子ちゃまなのだろうか。


でも、だって、――違う。

近藤と深夜番組について低次元にウケ狙いで冗談を重ねる方が断然有意義なのだが、

それではクラスメートはお気に召さないらしい。


  あーあ、

だとしたら結衣は女子高生失格なのかもしれない。

彼女の感覚は、お伽話の世界でしか支持されないのかもしれない。

――ここは教室、現実の世の中は煩わしいなと思った。


「結衣チャンねー、脳みそがねーお砂糖でできてるのー、みたいな。あは」

ふにゃりと笑えば大体がうまくいく。

女子生徒なのに幼いらしい結衣は、その場をやり過ごす愛想笑いを制服を着ているから心得ているのに、

その大人術も認められず、子供と分類されるらしい。

結衣からすれば、経験豊富だとばかりに威張るのは幼稚に見えるのだれど、

きっと負け惜しみだと笑われそうだからやめた。


「イッチーのカノジョお姉ちゃんって本当?」といった、興味津々な瞳を前に悟る。

噂話を確かめたくて、接近してきたのだろう。


ここはシビアな世界、女子高生最強説が有力な風潮、

苦手な人も居るし、嫌な話題もあるし、不愉快な気分にもなるし、――だからこそ成長しがいがあるってモンだ。


「めっちゃくちゃ美人だったし!!」


自信満々、結衣は笑った。
残念そうな三人が少し気の毒だったけれど、プチ意地悪をした仕返しだ。

ちりとりで集めたゴミたちを捨ててしまえば消えるから、心をクリーンにしよう。