そしてまた、
「やったんだ?」
このようなテーマが非常にキャッチャーなのは何故。
「イッチー優し?」
「王子のままなの? 意外とドS?」
彼女らのお喋りを理解するには、結衣がゆっくり四秒を必要とした。
五秒経つ頃には真っ赤なマニキュアを顔面に浴びたくらいに、
髪の長い少女は動揺を露わにしてしまったため、
クラスメートからすれば、いじるには持ってこいの反応だったらしい。
「は?、っ何、ウソ広めないでよ」
何言ってんの?
何、……は?
なんでそーなってんの?
意味が分からなかったし、そもそも見当も付かなかった。
一体何を誤解すればそうなるのだろうか。
至って平然としている女子グループを前に、恥ずかしくて結衣一人混乱してしまう。
「いいなー幸せ?」
「顔あかいよー」
「イッチーとか狡い」
「えっ、何、皆! どうされたの? え、市井?! は、」
この手の会話は得意ではないのに、真偽よりもリアクションを愉しむことにしたらしく、
女子高生のお喋りは、掃除を盛り上げる美しきクラシック曲を下品に塗り替えてぶち壊す。
「アクセくすぐったくない?」
「語ってよ」
「いつも市井ん家?」
「は、何、家知らないし! ……っ市井となんかしたくないよ!! てかしてないし!! なに、勘弁してよ」
例えば結衣が眠り姫だとして、
目覚めた時に目の前で微笑んでくれる人は近藤が理想で――けれど、許可なく彼を指名するのは申し訳なく、
そんな妄想をしてしまうのも心苦しく、結衣は頭を振った。
とにかく、マドカ高校の王子様とそのような関係ではないと否定することに徹底する。
そういえば以前里緒菜に忠告されたし、奥にも大塚にも市井について事実無根のネタを振られたような記憶がある。
どう見たら二人が恋仲に映るのだろう。
だから十代って困ると、結衣はまだ十五歳なのに十六歳の同級生に悪態ついた。
「えー付き合ってないのにやったんだ?」
「も、ないから! 妄想癖だって!、気持ち悪いよ皆、なに」
噂に挙がる根拠は一つもないのに何故。
さっぱり分からなかったし、恥ずかしさに戸惑うしかできない。



