揺らぐ幻影




つくづく高校らしいと思った。
毎日掃除をしているのに、どうして教室の床にはゴミが絶えないのだろう。

外履きでもないのに不思議。


流れ作業のように箒をぼんやり掃いていると、突然声をかけられた。

「田上さんイッチーと付き合ってる?」

それはクラスメートの男子による脈絡のないお話だった。


「は?」

続けざまに「最近仲良くなーい?」と、前の席の名もなき女子生徒に被せられた。

語尾を持ち上げる喋りは今の流行りを尊重しているのだろう。

目の前に並ぶのは同じくクラスメート数名だ。


「ふつー仲良いよ」

否定するのもおかしいので当たり障りなく答えるも、ここはE組、幼稚な生徒の集合体、

したり顔の男子二人に女子三人は聞く耳を持たない。

「良い感じー」
「いつから付き合ってた?」
「カレカノ羨ま」
「どっちから?」
「王子狙いとかあざとー」

「え、付き合ってないし! はやとちり?」

ありえないと否定すると、つまらないとばかりに男子が散った。

十代は分針が十五度動く間に男女がお喋りをしていると、どうして色恋沙汰に飛躍させるのだろうか。

面白い事情だと結衣は傍観し、掃除を再開させることにした。

箒の掠れた音が好き。
綺麗になる実感が湧く。

やや背中を丸めると、絹のようになめらかな髪の毛が宙へと垂れる。

マッシュ風のくびれと、くるんと揺れるCカールがお気に入り、

ストレートや巻き髪や少し前に流行ったボブヘアとも違うし、お上品な印象で学校の女の子と被らない点が嬉しい。


名前も知らないけれどCMか映画か音楽の授業かで耳にしたことがあるクラシック曲が、

天井のあたりでサラサラと軽やかに踊る。


ここは教室、女子高生の世界。
ゴシップが大好物な空間。

「イッチーって結衣見る目違うよね、あやしー」

「はー? 何その名言」

目が違うなど、まだまだ浅い人生で何を言うのか。

彼女らに対して半笑いになる結衣は、決して馬鹿にしているのではなく、

学生らしいなと愛おしく感じているのだ。

そう、現役の何が強みって、こういう発言。
ぬるい経験でスケールの大きな論文を読む幼くも可愛いところは、この時代にしかない感性だ。