揺らぐ幻影


「先購買行くよ」と、消えてくれる愛美と里緒菜が嬉しい。

二人に感謝をしたいなら、結衣は頑張って好きな人に絡まなければならない。


「オレンジ貰お」

拾い終わった飴ちゃんの中から一つ摘み、少年は立ち上がる。

追いかけるように起きた少女は、

「えーオレンジ結衣チャンの。レモンまずいからレモンあげる」と、砕けた口調で微笑んでみせた。

本当は浅はかな知識を鵜呑みにしたモテ子らしく、『ぁりがとっ』とか『近藤くん優しぃねっ』なんて褒めることで、

恋愛偏差値アップ間違いないと理解していたが、

彼女は自分らしい戦略を貫くことにしたので、相変わらず可憐らしさゼロの雰囲気を作ったのだった。


そもそも分かっていた。
近藤もこの手のくだりを気に入っていることを。

公算通り、彼はわざとらしく唇を歪め顔面を崩して喋り始める。

「はー? お前人に拾わせといてウゼ、洋平クンはオレンジの気分なんです」


こんなだから好き。
ウザイが成立するくだらなさを一緒に楽しめる。

波長が合うから結衣の恋心はやかましい。
オレンジジュースを作る際のミキサーみたいに煩いけれど、甘酸っぱさがリンクしている。


二人の会話に加わった「桃はいいんだ?」という声に、

初恋まっしぐらの結衣はレモンが美味しくないからと、あるだけ市井に手渡した。

黄は危険を知らせる色。
オレンジは朗らかな色。

「あはは、市井くんTV雑誌の表紙オファーくるって」

好きな人が傍に居ると、なぜだか何事にも笑えてツボが浅くなる上に、笑顔が形状記憶されるらしい。

そんな幸せオーラを漂わせることが快感で、結衣はここぞとばかり市井に披露していた。


少年を想う少女の表情は淡くお姫様らしいそれになる。


メルヘン思考を終わらせたのは、包み紙をあけてキャンディーを一粒頬張った近藤だった。

「あー! オレンジ私のなのにウザ」

誇張した結衣の叫びを打ち消し、「もう俺の」と言い放つ近藤が好き。

そして「性格悪いんだよ俺」と続け冷笑する彼には隈があるため、色素沈着しないかと心配する結衣だ。


ヒロインカラーのお花が揺れる中庭の前には好きな人。

たくさん学生が居る校舎の中で見つけ出した特別な人はただ一人。