揺らぐ幻影


皮膚に馴染む笑い声に結衣が顔を持ち上げると、

遅れて前髪がおでこを滑り、自然なメイクが施された丸い目二つ現れた。


笑顔を見せた彼女とは対照的に、ふわふわとした髪が表情を隠すのは未婚王子がしゃがんだせい。


  かっこい

  カッコイイ

安易な発想を許してほしい。
恋をすると愛しの彼の仕草は何をとってもイケメン姿となる不思議。

結衣の隣に屈んだのは近藤だ。

角ばった関節、丸みのある爪、たかが手一つが少女の心臓を狂わせることを少年は知らない。


「結衣が落としてー」
「ドジっコ結衣は目が離せないよ」

合いの手で売り込みをしてくれる愛美と里緒菜の鼻は赤くて、

どれだけ三人がスタンバイしていたのかが窺い知れる。

優しさは目に見えたりもすることを、近藤を好きになってから発見した。

人を想うと、たくさんの想いに気付けるようになるなんて、

恋愛は二人だけのものではないのだと嬉しい気持ちになれる。


「早く拾お」
「うん」

“偶然”飴を落としたら、“奇遇”にも近藤に目撃されていた――これを奇跡と呼ばずに何と呼ぶ?

微笑ましい程度なら捏造してナンボ、それがチープな運命となってくれる。


  、好き

単純に冬と言えば花も緑も想像付かないのだが、

渡り廊下東側にある中庭にはクリスマスを思わせるお花が綺麗に咲いていた。

十二月のフラワーショップで看板娘かのようにお客を運ぶソレ、

赤と呼ぶにはピンクがかっており、ピンクと呼ぶには赤が強い。

そんな絶妙な色は、まるで今の気持ちのようだ。

淡いピンクな片思いでもなくて、真っ赤な情熱的な関係でもなくて、

一生懸命に燃える色。


結衣は綺麗なものを貰えたら余裕で幸せなのだけれど、できることなら花言葉をなぞってくれると、もっと飛べる。

ほら、彼女はやはり乙女心を持ち合わせており、可愛らしい面もあるのだ。

飴を一つ、二つ、近藤が拾う。

結衣をドジッコさんだと思うなら、彼はピュアボーイだが、

洞察力に優れた彼ならば、わざと落としたと思う?

それはだめ、女心を読んでほっとけない女の子だと思わなければならない。

そう、男の子だってわざと騙されてあげるのが粋ってモンだ。