甘い香りを閉じ込めた小箱は、蓋を開けなくても空気中に隠れた魅力が伝わる。
……。
姉はいつもあの調子で変わらず、結衣が小学生の頃からそうで、
怒りオーラを漂わせている。
泣いたら怒られた。
我が儘をしたら怒られた。
ふて腐れたら怒られた。
いつもいつも怒られた。
歳が離れているせいだろうと、なんとなく思っていた。
友人周りの姉に比べて優しくないし、上から目線だし、だからかあまり懐けなかった。
ただ、結衣が笑ったら姉が黙るのは毎回新発見だった。
読めない綴りがデザインに組み込まれた小さな箱は可愛い。
なんでも貰ってきたのは結衣。
独り占めして隠して妹らしく甘えてきたのは結衣。
千里眼の姉に依存しているのは結衣。
結衣が雪女だった頃から変わらない。
いつも姉の薬指は光っている。
指輪は彼氏が居る証拠。
当たり前のこと。
婚約者がくれたもの。
目に見えて分かること。
ずっと前から決まっていること。
姉が結衣だった頃、秘かに憧れていた。
母親に彼氏を紹介したり、夜中に長電話をしたり、両親に隠れて旅行をしたり、彼氏が父親に挨拶をしにきたり、
結衣が見ているだけの新しくオープンしたカップルにお勧めのカフェにデートをしたり、
夢を見ていた。
あんな風になりたいと幼心は希望に溢れていた。
彼氏、
姉は姉で、ずっと姉で、手の平にあるちっこい箱はやっぱり可愛い。
強い風が吹き抜ける街は無視し、遮光カーテンを開けて夜空を仰ぎ見た。
暗闇を健気に飾る薄い星屑は確かに綺麗なのだけれど、地上の明かりが気になってしまう。
きっと結衣は本当の意味でお姫様にはなれない。
愛美や里緒菜、大塚や姉、皆の幸せを奪いすぎだから、見返りを求めないプリンセスにはなれない。
だからイミテーションで大丈夫。
価値ある宝石でなく、スワロフスキーやビジューでもなくお手頃価格なスパンコールが調度いい。
リボンが光る可愛いウサギのお財布、携帯電話の輝くストラップ、フラッシュ加工で煌めく待受画面、
キラキラしている小さな箱。
いつだって幸せは眠る前に訪れる、――と物語を括れば、根拠はないがきっとうまくいく。
…‥



