揺らぐ幻影


  ゆきおんな、

もしかすると、結衣の今の性格があるのは当時の嫌な経験からなのかもしれない。

からかって嘲笑う人より、学園祭レベルの自虐ネタで爆笑をさらう人になりたかったのかもしれない。


このような流れ、過去を尊ぶ行為を残念なことに結衣は不謹慎に茶化す女なので、

自己を言及しない。
なぜならシリアスはらしくないためである。

ただ雪女という嫌悪していた響きを、好きな人が、近藤が、奏でてくれるなら幸せなメロディーに化けるミラクル、

大好きな少年は視野の狭い少女の世界を広げるために存在するのかもしれない。


《積極的にTV見て忙しいよ?笑》と送れば、《あっそ。笑》の短文で、

長くない文章の方が嬉しくなることを彼は知らないのだろう。

《教科書が友達?笑》

《ブラウン管が親友?笑。好きな色はブラウン?》

《質問返しするな笑》

《命令すんな笑》

相変わらずの他者からすれば理解しがたい、むしろどうでもいいやりとりをして五通、

邪魔にならないようにおやすみと言って携帯電話を閉じた。


「……。」

  いいかんじ、だよね?

  順調? だってもうすぐ……

  、ホワイトデー

無意識に緩まる唇が自然と笑顔を作る、幸せとはこういうことだ。


大好きな人はお花畑の世界へ導くただ一人の人。

甘い予感へ誘う人。
恋を教えてくれる人。

ロマンチックモードに入った痛い結衣がお布団を蹴って喜びを表現していると、突然ドアが開けられた。

切り抜かれた長方形の中にいるのは、習字の書きはじめみたいに眉頭が盛り上がった怒り顔の姉だ。


「結衣の馬鹿!」

「、えー……、何、びっくり、オオキ」

どうして彼女はいつも決まってご立腹なのだろうか。

誇張して足音を立てて近寄ってくる姿が滑稽でならないが、

兄弟ネタで近藤とお喋りができたこともあったので、笑顔で迎え入れた。


にも関わらず、突然腕を引っ張られ、肘までパジャマをめくられ、

剥き出しになったのは雪のように白い肌だ。

驚く隙も与えず、「ほらやっぱり! クリーム盗んだ!! むかつく」と怒鳴られては、

甘い香りを放つ雪女が完璧に逃げ場を失ったことになる。