揺らぐ幻影


時計の針がもうすぐ別れの時を知らせる。

シンデレラはなぜ走り去ったのだろうか。

さもしい結衣が彼女だったなら、王子様に気を持たれていると察するだろうから、

たとえみすぼらしい姿に戻ろうが、堂々と腕の中で鐘を聞く方を選ぶ。


だって、あれはたまたま鉄の靴を履ける人が本人だけで良かったものの、

仮に貴族のお嬢様がジャストサイズなら?

結衣は奇跡の再会にかけるより、そろばんを弾いて十二時を過ぎだ僅かな時間に運命を委ねる。

きっとお偉いさんは貧相な小娘に反対し、門限を破ってそう経過していない内に追い出されるのだろうけれど、

魔法がとけて十秒後にさよならをしなくちゃならなくても、

その十秒に賭けたくなるのが結衣なのだろう。


「ミー、コンコン隈凄くない?」

わざとらしく近藤の目を指差す王子様に、「黙れ天才関係ねぇ」と口答えをした側近は顔を隠すよう軽く俯く。

確かに色白な近藤の凛とした瞳の下には隈がある、というより充血している目の方が気になる。


「頑張り過ぎってミーから注意してあげなよ」

「え、でも普通に大丈夫? そんな勉強……テスト真面目?」

  ほんとに勉強してんだ

  そんなテスト気合い入れるんだ

徹夜明けとはいかないが、寝不足が伝わる顔色に驚いたし、

そこまで学年末テストを頑張る理由が、向上心のない結衣には共感できにくい。


「そ、頑張ってんだよ俺。イッチーみたいにテスト一位とりたいからコンコンは」

「目指せ一位イッチー」

「コンコン夜食おいなりさん?」

「ミーさん、あんたの友達がコンコンいじめてきます。俺助けてよ」


「、……なんか」

  ……。

同意を求める好きな人に相槌を打てず、結衣は真っ赤にホッペを染めて黙りこくってしまった。

E組の烏合が賑やかなのはいつものこと。


けれど、

大親友の女友達が好きな人とその男友達とはしゃいでいる。

その図は凄く貴重に感じてしょうがないのだ。

茶番劇めいた台詞のやりとりの粗雑さが照れ臭く、どうしてか胸がいっぱいになる。

幸せの次を証明するにはなにを勉強したら良いのやら。

数学の定理は人生に応用できないので、どうにも感情は立証できない。