揺らぐ幻影


ちょうど二人の話題だったところでタイムリーな登場に、内容が聞こえていなかったかと微妙に気になるも、

ただの冗談なので問題ないと決めた。


無意味にミーと市井が口にする度に、近藤がハテナの表情を追求していくので、

ミーとはアルバイト先のあだ名で、ちなみに小中は雪女だったと残り三人に説明する。


「市井でイッチー、近藤でコンコン、安易すぎ」

話を振ってくれる愛美と、

「二人なんで下の名前? 変、ドラマチック」

質問をしてくれる里緒菜は結衣に過保護なのかもしれない。


  そう!

  気になってた

どうでもいいと言えば心底どうでもいいのだが、

普通クラスメートの男子同士は苗字の敬称ナシか小学校の名残のあだ名で呼び合うのに、

洋平と雅はなんだか違和感があった結衣だ。

道徳の時間に見せさせられる映画的な雰囲気が強かったため、

下の名前を選んだ理由が知りたくて、過剰に頷いてみせた。


マドカ高校の王子様は、市井の音が一位だから苗字が嫌いなのだと笑う。

聞いたところで、へぇしか感想がなかったのは言うまでもない。

しかし、「コンコンとか可愛すぎるから嫌だ」と同じく笑う近藤に限っては、

そんな要因があったのかと、一大事に捉えるこの格差が正に片思い優劣の象徴である。


E組の中にF組の二人が居る感覚は形容しがたいが、とにかくくすぐったく、

今日一番幸せな瞬間だ。

クラスメートたちが不思議そうにこちらへ注目するので、

厚かましくも自慢したくなってしまう。


「コンコン、おいなりさんいる?」

「それ小学校ん時ばりばり言われた、古い残念」

メール同様にくだらない会話で爆笑できるなんて近藤という人は面白い。

一分足らずでここまでワクワクするのなら、彼と付き合えるとどんな時間を過ごせることになるのか、

想像すれば幸福が増える一方だ。


まるで彼氏彼女みたいだと状況に酔ってしまい、

もしも恋人になれたなら、こうやって休み時間にお喋りをしたり、廊下ですれ違う時に野次ったり、

ああ、そう遠くない未来に夢を叶えたくて堪らない。


ホワイトデー、あなたは好きになってくれますか。

聞けない言葉は笑顔に変えた。