揺らぐ幻影


「仕事。髪括ってたね、小学生みたいだった」


淡く微笑む市井に「バイト先?」と、近藤が不思議そうに尋ねるので、

「制服姿のかわいーアタシのファンになったらしいよ」と、ドヤ顔を披露する結衣に、

「結衣可愛いよね」と愛美が皮肉めいた言葉を被せると、市井も大袈裟に頷く。


この安っぽい流れが気に食わないといったように下唇を歪めていた近藤は、嘘臭いなと呟き薄ら笑いを浮かべた。


胸の高鳴りに偽りはない。
近藤洋平、違う人でも駄目だ。

  、ぽこりん

好きになっていた。典型的な片思いをしちゃっていた。

彼は結衣にとってかけがえのない人。
いつの日か高校生活を振り返る時に浮かぶ人。
これから先のあらゆる面で基準になる人。

好きで好きでどうしようもない人。


やっぱり近藤だから今がある。

そしてまた、とりあえず歳をとれる。
けれど精神年齢は同級生でもばらつきがあるのが事実で、

誰かと接したとしても自覚がなければ成長率は低いのかもしれない。

愛美と里緒菜、仲良し三人組の意味を痛いくらい刻ませたのは近藤なので、

やっぱり誰かを好きになることは思春期に莫大な影響を与えるのだと信じたい。


たかが恋愛、一時の恋愛、軽い恋愛、そんな風に屁理屈を並べられようが、

結衣は恋愛最強説・特に近藤洋平最高説を貫きたい。

だって、彼に出会えないと彼女は人としてクズなままだった。

上っ面なオトモダチごっこをしたまま無自覚テヘッで許されようとする甘えたのままだった。


つまり近藤洋平、彼には感謝しきれない。

恋愛をした女の子は多分芯が強くなる。


大人になると結衣の頃の儚さを忘れてしまいがちで、

戻れない日々を羨む日が増え、いつの日か嫉妬に変わり、子供だから若いからと高校生を馬鹿にする。


この瞬間の感情を忘れたらいけない。
好きな人と目が合うだけで幸せを得る自分の存在を、

しっかり心に覚えておきたい。


すべてが大切、すべてが特別、
それは近藤が支配する世界だ。


十五年間知ったかぶったすべてを一から教わり直す綺麗な教室で、

「ミーって何?」と言う里緒菜に同調し、近藤が「にゃんちゅー?」と困惑気味な目を結衣に向けてきた。