突然現れた好きな人を結衣は見つめた。
胸の中にある恋心が働くと、ふわふわとしたチョコレートの香りを蘇らせる。
黒に近い赤みが特徴的な寝癖風のニュアンスヘア、長い前髪から覗く中心に寄っている目尻が微妙につりあがった丸い瞳、
横顔のラインが綺麗なすっとした鼻、甘い声を秘めた薄い唇、少し白い肌、前に立った耳が可愛い。
少年っぽい雰囲気やオシャレな感じが好き。
ユニークな性格をしていて、相手のツボを狙う話術は誰かの笑顔を作る。
近藤洋平、あなたは知らない。
とある少女を変身させてしまっていることを。
たかが初恋、たかが片思い、たかが恋愛。
学生の一生なんて、どうせ一時の付き合いだからしょうもないことだと大人たちに言われがちなことくらい、
結衣だって知っている。
けれど、彼女以外は知らない。
好きな人は凄い人。
大人たちの冷めた見解を覆す素晴らしい人。
だって近藤に恋をした結衣は、自分を見つめ直すことができた。
いけないところを挙げたらきりがないけれど、
例えば人を思いやる気持ちが欠落している点、純粋なアツさを喪失している点、ナルシストが入っている点、
たくさんある改善点に気付けた。
そんなマイナス要因を知り、明日の自分について考えることはポジティブ思考に繋がった。
何をしたら良いのか、何をしたら皆の好意に返せるのか――そうやってネガティブで終わらない点が自分のいいところだと知った。
ほら、このようなことからも近藤に恋をしたお陰で、結衣が成長したのも事実。
頑張ることとか他人との付き合い方、友人のありがたみとか素直さとか教えてくれたのは恋愛で、
つまり、近藤洋平は結衣を大人に導く人。
――と、空想もほどほどに。
連れて来いと言われたら不可能だが、どこかにいる大人たちには、
所詮片思いビジョンでえこひいきだと鼻で笑われるに違いない。
彼は所詮ただの男子高生で、ただの十六歳だと。
別に他の男の子たちに比べて特別優れている部分などないのだと。
好きという色眼鏡で見るから周りよりも尊い人として存在しているだけだと。
そもそも好きな人が別でも構わないのだと。
そう、近藤だろうがなかろうが――?



