揺らぐ幻影



  ごめんね、熱血

胸の中だけで謝罪をした。

今だって、髪をきっちり結ばずぐずく纏めた方が似合うのになんて思ったりなんかして、

気分が重たくなり目線を下げた。

結衣のローファーはぴかぴか。
熱血の体育館シューズはぼろぼろ。



「部活青春って感じー、私には過ぎ去りし日々、あはは」

結衣の強みはお天気さで、ヘラヘラ笑っておけば心が勘違いしていつだって楽しくなれる。


けれど、

「どした? 田上ちゃん今日の笑顔らしくないって本当。悩みでもある?」と、

意味不明なことを言われた。


黙って三秒見つめ合う。
その、曇りない瞳が熱血の証拠だ。


「あはは、なにそれー?」

「ほら、それ。田上ちゃん嫌なことあっても絶対笑顔じゃん? ウチそういうとこ凄いなって思う。

それにクラスん空気悪い時って田上ちゃんや小崎ちゃんが率先して明るいムードにするじゃん? 偉いよ、凄い。

田上ちゃんって高校生なのに大人みたいだよね、いっつも皆を和ませる、パワーがある。

田上ちゃんみたいな人、憧れるよ。なんでそんな暗い顔してんの? 役に立てないウチだけど話くらい聞くよ?」


これぞ熱血による熱血指導だ。

長台詞を噛まなかったことにまず拍手、といった感想しか持てない結衣は、

この手の類いにどうしても感動できない。

頑張ってもハッとしたり、心動かされたりできない。


きっとピュアな少女はこんな綺麗な展開がお好きなのだろうが、

貧しい心の人間はハテナ?となる薄情瞬間なのだ。


語られたら困るし、
名言を吐かれたら焦る。

そう、あくまで結衣が選択する世界にはおふざけさんしかキャスティングされないため、

熱血のように説く子は異世界の新人類に感じてしまう。


それはクラスメートの女子に見られる講演会を開きたがるキャラクターだ。

熱血のような自然体な人のアツい弁論、派手な辺りによるアツいダチ熱弁、

癒し系の人による人生雄弁、小悪魔ガールによる恋愛演説などなど、

教室にはアツく諭してくれる仲間で溢れている。

しかし実に残念なのだが、結衣はそこに乗っかれない。

愛美や里緒菜を見れば分かるように、彼女の世界には必要なかった。