「彼女にするなら田上結衣でしょ」
「分かるー性格良いしーかっわいいし」
きりきりとした冷気に乗せて、枯れ葉が二枚舞っている。
お札をお箸で摘むゲームのように、不規則で予測ができない運を操るのは誰?
「結衣萌え?」
「普通に田上結衣推し」
好きな人と目が合いとうとうとときめきに浸る結衣とは正反対に、
里緒菜と愛美が一人の少女を絶賛する大きな声を近藤の背中に投げかけている。
ちなみに友人二人が変な口調である点には突っ込んではいけない。それこそが女子高生イズムなのだ。
もうこちらを向くことのない後ろ姿を見飽きる予定はない。
身長はそれなりの高さのはずだけれど、やはり市井の隣に居ると小さく見えてしまい、少々気の毒だ。
それでも万が一、マドカ高校の王子様と同じくらいの背をしていたなら、
たちまちモテモテライフを送っていただろう。
たくさんの気持ちを込めて結衣は小さくなる人に祈る。
「結衣になりたい」
「結衣可愛い」
ようやく二人のお喋りの内容に気付き、襟足も格別だと味わえずにギョっとした。
……結衣結衣って、
絶対聞こえてるし!
不自然過ぎじゃんか
慌てて結衣は「ちょっ、なんで私ー? 恥ずかしいってば」と、後援者に負けない音量で叫んでいた。
それは大迷惑な深夜にカーステレオを鳴らしまくって暴走運転を繰り広げる級の不快な爆音だったため、
里緒菜や愛美よりも、むしろ結衣の方が極めて騒音だったが、本人は気付かない。
彼女の頭の中はただ一つ。
これでは田上結衣という女には騒々しいおかしな友人がいるのだと、
近藤に誤解されるではないかと必死だったのだ。
だから二人の歓声を止めようとしただけで他意はない。
それはそうと、たかがすれ違い様にいちいち他人の会話になんて耳を立てる訳ないだろうに、
恋に落ちると細かい点が気になる割には細かい点に気付かなくなるらしい。
周りは見えない。今しか見えない。
例えば、太陽の光り輝く様子に恋心を馳せないし、突拍子もない風に片思い心理を代弁させることなんてできない。
そもそもこちらは必死なのだから、ゆとりある自然にまで気が回る訳がない。



