揺らぐ幻影


もしも結衣が伝記本を自費出版するとして、

嘘偽りなく密着二十四時ドキュメンタリー的な作品を心がけるとして、

何ページか戻ってみれば、果たしてそこに里緒菜の恋愛に纏わる伏線は書き留められているのだろうか。


悲しそうな瞳をしていたとか、気落ちしているような空気を出していたとか、辛そうに唇を噛んでいたとか、

ありえない。

つまるところ、結衣が筆をとっているのだから、あくまで自分目線の独り言であり、

バレンタイン神社を提案してきた里緒菜の様子や会話など、文字として残っていないし、

恐らくあの日のページには近藤への想いしか綴られていないのだ。


千里眼だったら良かったのにと後悔するも、感知する能力はやはり人生経験がモノをいうのだろう。

結衣が察することができるのは、情けないかな己にプラスになることばかりで、

クラスメートの女子にはオシャレと評判が良いことが嘘にはならないこととか、

男子にはカワイイと好感度が高いことがない訳ではないこととか、

くっだらないことだけは一人前に読むことができるけれど、

そんなもん里緒菜や愛美立場だと関係のない話で、

僅かに周りを見据える目があろうとも、所詮結衣は鈍いという名の無神経野郎にすぎない。


なぜなら愛美や今回の件、里緒菜と大塚の心中など知らなかったため、

いくら性格上ピュアではないと打ち消したところで、結衣は鈍感テヘッ娘と同類なのだ。

それって女子高生として歯痒い。

皆が必死で歩く教室に居るのに、空気を読まずにふわふわ浮世離れした価値観で飛んでいるようなもので、

大変情けない人間性をしている。


逆に愛美と里緒菜は素晴らしいと賞賛する要素しかない。

例えば愛美、彼女は浮かれモードの有害な友人と切なさ真っ只中の友人という正反対な二人の世話をしていたのだし、

例えば里緒菜、彼女は好意に気付かずへらへらするばかりの欝陶しい友人に八つ当たりなんかせずに、らしくあったのだ。


良いところしかない二人、嫌なところしかない一人、集えば三人。


  、感謝足りてない

  ……ナシな馬鹿

二人の畏友は愚図娘の心を推察できる大人術があるMとRで、

歳だけ重ねるからっぽ女はYだ。