揺らぐ幻影

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小学校の書道の時間みたいだ。

筆を洗って墨汁が滲み出たバケツの中の汚い水の色みたいな雲が空にへばり付いている。

都合よく雨が降るもんだ。

異常ナシのアルバイトを終え、お風呂上がりには姉のボディクリームを拝借した。

つとつとするお肌は自己満足になるのか、恋人の為の努力になるのか、

どちらの未来が彼女に相応しいのか。


《ピカ見た? 入れ歯の貴公子シュールすぎ笑》

歯磨きをしながらメールを送信する。

もうハテナとびっくりマーク以外は絵文字を使わなくなっていた。

なぜはっちゃけた文面には抵抗感があるのか。
携帯電話とクラスメートに対する先入観が少々偏っていると自覚しているも、

やはり話す時とメール中のテンションには差がない人格でありたい結衣だ。

鏡の中、洗面所で文字を操る。


《見忘れた最悪! なんかもう音楽番組なんですけど、教えてよ入れ歯おじいちゃん笑》

《えー、見ようよ。面白かったのに馬鹿。ざっつおーる笑》

《うっせ。真面目にハゲちゃん勉強してたんだよ笑》

《何そのイイ子ちゃん発言》


なんてことないやりとりが日常になれば嬉しい。

里緒菜は大塚とこんな風に時間を過ごしたかったのだろう。
メールをしたかったはずだ。


彼はいつから結衣を好きでいてくれたのか。

興味がない人の言動なんていちいち気にしていなかった。


  ……里緒菜。

歯磨きの片手間に打つ言葉の羅列、このなんてことない今が貴重だなんて不思議だ。

たかがメールを有り難がろう。


テスト勉強をしている近藤は面倒だと感じながら、あるいは息抜きに微笑ましく思いながら、

どちらにせよたかがメール。

そんなたかがは贅沢だ。
ああ、馬鹿みたいだ。
お前は詩人かとツッコミたくなるも、人と接することは大切なことなのだと痛感してしまう。

叶えたいなと思う。
叶えなければ二人に悪いなと思う。

しかし、結衣が振られても二人はガッカリせず、悲しくなってくれるが、呆れはしないのだろう。

チープな友情でいい、一人で居る時の方が友人の優しさが分かるし、自分を見つめ直すことができるらしい。