揺らぐ幻影


果たして、なぜ電話をしたのだろう。


好きな人が居る身分で答えなど一つしかないのに、ならばなぜ相談を持ちかけた?


残念なことに電話をかけてしまっていた自分の中にある女の部分が悍ましいったらない。

大塚を振ったとしても、いい人でありたいと多少なりとも願ったからではないか。

それを人はたらしと呼ぶ。
男好き・魔性・小悪魔と判断するのは、純粋な方の発想であろう。

『アタシなんかを好きになってくれてありがとう』は素敵な言葉が故に、

自分に陶酔したい女に相応しい台詞だ。

告白された自分が大事な自己中心女だったなんて結衣は情けなかった。


《ごめん。ただの友達としてよろしく。》

精一杯考えた言葉、ありがとうは卑怯な気がしたのでやめた。

《俺こそごめん。市井のこと好きだよな? 頑張って》


なぜ里緒菜のチョコ断ったのかは聞けない。

どうして大塚に好かれていたのかなんて、やっぱり分からない。

結衣が男なら里緒菜を選ぶし、脈もない結衣をわざわざ好きで居続けない。


それでも彼は叶わぬ恋をしてくれていたようで、近藤に恋をする結衣と似ているなと思った。

彼女だって、例えば近藤が里緒菜を好きでも諦めるなんて無理だ。

譲れない気持ちが恋ならば、譲ることが愛になる?

などと、この歳で恋や愛だを語れど価値を下げるだけだろうから自重しよう。

もちろん歳とは精神年齢なのだけれど。


《ご祝儀下さい》と送れば、《了解、おやすみ》と返事で、

ほら、冗談がつまらない男友達であればいい。

《サイドに彼無しオススメガールが二人も居ます笑。またね》

このくらいの言葉は許してほしい。


深いため息は行き場がなくて、部屋中にどんどん蓄積されていくばかりだ。

ふがいない気持ちの篭った空気を吸えば、お腹の中が腐ってしまうかもしれない。

チョコレートのお花は酸素が足りなくて萎れてしまうかもしれない。


ぐちゃぐちゃになったパンを一口頬張った。味はなかった。

多分マヨネーズとじゃがいもとパンの味がした。

パンの味とは小麦粉とイースト菌と……ああ、つまらない。