揺らぐ幻影


『――ただいま電話にでるこ、』

愛美は通じない。
次は里緒菜だ。

相変わらず恋愛慣れした子の意見を先にと愛美が浮かぶ。


ベッドの上には朝ごはんとなる予定の紙パックジュースと、

中に丸ごとじゃがいもが入っている分厚いパンが並んでいる。

転がるリモコンはチャプター再生かオール、特典映像を選ぶメニュー画面から進めないでいる。

単調なTV画面の明かりが壁に溶け込む。


『ぽこりんネタ? 良いよー名ばかり美容日の暇な日だから。語りんこしなさいな』

突然の電話にさすがの友人、お喋りの内容は定番となった片思い議論だと察知したらしい。

里緒菜のハスキーボイスと結衣のシュガーボイスは対極で、二人の中間が愛美の声だ。


一度唾を飲み込み、つとんとした毛先をくるくると回し弄る。

髪を触るのは緊張した時によくする結衣の癖の一つだ。

ならば今、彼女は気を張って震えているということなのだろうか。


「聞いて、びびるよ、オオキ。なんか告白、された、んだけど」

『え?! ホワイトデーじゃなかったっけ』

「そうなん、っけど!!」

ドキドキしてにやけるのは生理現象だと許して頂きたい。

でなければ、乙女心に傷が付く。


「お お つ か 大塚!! 告白された! なんか、」


メールの主は予想もしていなかった人物・大塚で、

結衣が好きなのは近藤で、

それでも少し気分が良くなるなんて、本当に情けない。



果たしてこの電話は何が目的なのだろう。

普通、王道の乙女ストーリーならば、

自分は相手に恋心がなかろうが、告白してくれた人に対して本当に真剣に考えるらしいのだが、

その手の純心無垢な少女など、現実の女子高生となれば稀である。

単純に『モテちゃった』、『アタシってばイケんじゃん』という擦れた発想が生まれるものだ。


例外なく、結衣も該当する。

それは悪いことではないと述懐したい。

たくさんの人が居る中で、わざわざ自分を選んでくれるなど、喜ばしいことではないか。

誰かに好かれることは自信に繋がる。

だから神様はきっと性別を与えた――なんて詩的なことを飛躍させる痛い結衣こそ、大塚が好む女子ということになる。