揺らぐ幻影


教室にある話し声が音楽のジャンルだとすると、きっと万人受けするヒットチャートのJ-POPがしっくりする。

元気いっぱい賑やかで駆け足が似合う活気の良さだ。

記憶の中にある情景の陽気さに比例して、後々学生時代を思い出す時に切なくなるのはなぜなのだろう。


「え、俺? っ知ら、ない」

女子生徒に声をかけられただけで真っ赤な顔をしてしどろもどろ答える大塚は、

こっちが恥ずかしくなるくらいの反応だ。


彼はいくら外見がマシになっても、免疫がないせいで異性には挙動不審になる節があるも、

「ふうん、つまんなーい」と、ぞんざいに扱われる様があまりに不憫だったので、

結衣は「あ、じゃあお題。初デート、ご飯のお店は? 食べやすいから私ドーナツがいい」と言ってから、

「ほら、大塚くんは? ファミレス?」と、少し気を遣い尋ねた。


「あ、うん、うん、それかな?」

もごもごと喋る少年は、結衣の前の席の少女と目が合う度に、どんどん赤みを増していく。

本当こっちが気恥ずかしいったらない。


「え〜! ファミレスはナシでしょ」

せっかくムードをよくしようとしたのに、というより彼女から話しかけたのだから、ちょっと大塚が可哀相だと思う。

こんな風に女子はあんまり興味がない男子には、ちょっと意地悪な態度をとりがちな場面を目にすることがあるし、

自分にも心当たりがあったため、気をつけなきゃと結衣も反省した。


彼女によると、ファーストフード系だと長居が出来るから、

逆に帰る頃合いが謎で、グダグダになる恐れがあるらしく初デートには不向きなのだそう。


なんて、高校生のお喋りは雰囲気オンリーなので、その場限りの意見だったりする。


遅れてきた先生が謝りながら教室に入ってきたので、

雑談のしめとして、「でも好きな人とならなんでも嬉しいな」と結衣がふざけたら、

アハハと言って、二人はきちんと黒板へと姿勢を正した。


  ……。

笑うだけで終わる二人。
これが愛美や里緒菜や市井や――近藤なら、きっと冗談を返してくれる。

比べてしまうなんて、なんだか人でなしだと自重するも、だから幸せだと実感した結衣なのだった。