揺らぐ幻影


中学の頃から彼氏が居ないと言えば、『理想高いんだ?』と、決め付けられ少々不服だ。

なぜなら、単純に好きな人に出会えていなかっただけで、

タイプは近藤なだけだ。


「結衣ちゃん付き合うなら?」

「面白い人!」

頭に浮かぶ男の子はただ一人で、結衣は彼のことを無意識になぞり語っていた。

それはそれはひどく幸せそうな表情だったんだとか。

「チャラくなくて。普通に話が可笑しい人なら。自分で自分の発言に笑う感じ?」

「あはは、天然ボーイ。じゃ、顔は?」

「んー……中性的?な? 薄いけど目とか別にはっきりしてて。なよなよしてないけど甘さあってー」

「市井くんみたいな?」

「あ、そかも。少年系がいい、爽やかな」

夢見がちな少女が奏でる好きなタイプの特徴は、恐らくF組のあの人にしか当て嵌まらない。

彼を想えば必然的ににやけてしまう。


「服は? あたしダボダボなん好きかも。チェケラ的な、あはは」

「えー違う、私はなんだろ、カジュアルでもキチっとめ? 前ボタンのセーターにさ、なんか手品みたいな帽子とか上手に合わせる感じ。

オシャレ人並みなら良いけど、ほら、凝りすぎてたら隣並んだら格差が、ね?」

メンズ服のブランドやファッションの系統には詳しくないので、

近藤の私服がいわゆる何系なのかは分からないが、

バレンタインの時に見た私服を連想し、

彼なら縫い目にこだわったシンプルなシャツにゆるくフィットするセーター、半端丈のボトムなんかを合わせそうだと思い、結衣は口にした。


あの人の隣りを歩ける人になりたい。

デートの際、すれ違う女子高生たちに『お似合いだね』と噂をされて認められたい。

人の目を気にするのは幼いだろうか、それでも夢だ。

皆がいいなと微笑んでくれるような相思相愛の恋人になりたい。


どうして好きな人のことを想い声にすると、満たされた気持ちになるのだろうか。

カラオケでフリータイム歌い終わった達成感のような、大好きなアボカドとサーモンのサンドイッチを食べた満腹感のような、

幸福な快感、喋るだけで有意義だ。


「男子は? 大塚くんはどーよ?」と、お喋りの輪が結衣の左隣りの奴にも広がった。