揺らぐ幻影


「お帰り王子」

用事を済ませて帰ってきた市井に、ご機嫌な結衣は自ら声をかけた。

男子と女子の友情なんてどうでもいいが、ただ彼は人として楽しいから好きだ。


軽く手を振り、「ただいま魔女ー」と通り過ぎる王子様に、

そこはお姫様でしょうと不服に思うも、くだらなさが笑える。



「イッチーって。カッコイイよな」

ぽつりと呟いた大塚に教えてあげたい。

一番素敵な人は近藤で、近藤が一番なのだと伝えたいけれど、

結衣の恋は秘密だ。


話は逸れるが、彼女は少々欲張りなのかもしれない。

そう、市井に好かれたい欲求がある。


それは典型的な小悪魔たらしガールの意味ではなく、

あくまで、色恋抜きのポジションで単純につるみたいという意味合いだ。


理由は簡単、例えば社会人の恋人が居たとして、彼氏が彼女に同僚を紹介し、そのまま同じ仲間になる感じ。

しかし、彼氏のプライベートに足を踏み入れ、世界を共有しようとするタイプの女を近藤が苦手なら危ないので、

結衣のものさしは好きな人だから、しゃしゃらないように気をつけるつもりだ。


彼はどんな価値観の男性なのだろうか。

知りたいことはたくさんあって、でもなんでもかんでも知りたがるのはいけないということも多少は分かる。


やっぱり夫婦は凄い。
全ての秘密を分かち合い支え合うのが童話の世界の王子様とお姫様で、

それは夢見がちなこと?

夫婦だからこそ秘め事はある?
夫婦だからこそ内緒はゼロ?

どちらが正しいのかは恋愛経験がない結衣には選べない。


さて、どんな未来になるかで悩むより、近場のホワイトデーの方が暇人には重大だ。


  花嫁、さん

市井の姉は今の結衣の時には結婚をしていたんだとか。

永遠? 誓い? 一生?

詩的な単語はさっぱりだ。
結婚したいけれど、勇気はない。
そもそもまだ付き合ってもない。


子供の頃は夢を見ることで褒められたのに、願望を語れば現実逃避と引かれる今、

近藤の人生に一番必要な人になりたい。


好きになるって何?
結婚って何?

小学生が聞くようなことを、時々誰かに質問したくなる結衣はとりあえず毎日が嬉しいのだと推測される。