揺らぐ幻影


淡く微笑む表情はふんわりしていて、ホッペに生クリームを塗ったら凄く似合うはずだ。


甘い甘い王子様はどんな風にお姫様を扱うのだろうか。

可愛いだなんて、手慣れたホストのような台詞をさらりとこぼすのは罪だが、

社交辞令にしろ、なんだかそういう女慣れした雰囲気は想像つかないし、あんまり市井には相応しくない。


例えば寝間着を脱がすより、風邪を引かないようにと毛布をかけてあげる方がらしいし、

違う意味で眠らせる序論のキスなんかより、おやすみとおでこにピっと唇を落とす方が断然らしい。


男子生徒はなんだかんだいつも下品な話題ばかりだけれど、

マドカの王子様である彼は他の人とは趣味嗜好が違う気がした。

それでも好きな子の前になると、姿を変えるのだろうか。

しかしながら、赤ちゃんみたいな笑顔の癖に大人なムードを醸し出すならギャグになりそうだ。

  健やかママも安心!、みたいな


ここはあくまで冗談なのだから、『知ってる』とか『惚れるな』と返すべきなのに、

お世辞の可愛いにエヘヘと、結衣はだらしなく笑ってしまう。


今はきっと片思いな有頂天。
オシャレな服コの女子を見慣れた人のお墨付きだと、いくらか自信がついてしまった。


  近藤くんも可愛いって思ってくれるかな

無意識に結衣は足をばたつかせていた。
早く大好きな近藤に会いたくてたまらないようだ。


  褒められたらどしよ……

とことん自惚れることが許されるのは、自称お姫様の特典だ。

不安だらけで下を向き、猫背になるよりも、

間違った見解で堂々と胸を張り笑顔を振り撒く方が、きっと毎日は明るい。

武器なんてない、この身一つ。
ならば、せめて本人くらいは笑っていたいじゃないか。


この恋は失敗率の低いグラタンみたいになりたい。

一口サイズの鶏肉と薄切りにした玉葱をバターで炒めて、小麦粉を加える。そして牛乳を注げば不思議。

なぜかとろついたクリームソースが手軽に出来上がる。

昨日の残りのポテトサラダにかけてチーズやパン粉を散らしオーブンへ、手抜きなほくほくグラタンの出来上がり。

適当なのに簡単、絶品。
家庭的な恋が欲しい。
気張らなくていい、平凡な両思いがしたい。