揺らぐ幻影


それでも「こっちのが可愛い」と連呼する奥へ、そんなミラクルはないと結衣には疑心しかなかった。


好きな人ができる前から人並みにオシャレを愉しんできた。

アイラインなんてリキッド・ペンシル・ジェル、ドラッグストアで買えるチープなものから、

雑貨屋さんに並ぶ少し高いもの、百貨店に入ったハイブランドものまで試したし、通販さえも手を出した。


アイシャドーだって汗で落ちたり、見た目と発色が違ったりで、

なかなか理想に出会えず、たくさん買い漁ったし、

マスカラなんて、それこそコームの形やボリューム重視か長さ重視かあれこれ揃えたし、

もう、とにかくコスメには随分と投資してきたのだ。


スポンサーなど広告や宣伝を兼ねている事情を知らなかった中学の頃は、雑誌モデル愛用品を真似ッコしたり、

可愛いクラスメートの使用品をトイレで借りてみたり、とにかく頑張って研究してきたのだ。


中学一年の秋にお化粧を覚えてきたのは、

コスメのアイテム数が可愛くなれる証だと信じていたせいなのだけれど、

奥のメイクで使用したのはほんの僅かだったため、信用していなかった鏡の中の自分。


渡された手鏡を結衣は思わず落としてしまった。

ありえない、この五文字に尽きる。


「なん、……?」

「濃いんより可愛い、すっぴんに似てるでしょ」

厚化粧で隠されていた秘密がこっちを見ていた。

おっとりしてると言われる雰囲気の女の子が居た。


  、うわ

  え、なんか……えー

少ないアイテムで完成した女子。
まだまだオシャレ知識が乏しいと痛感できる仕上がりだった。

個性を生かすか殺すか。
そう、明らかに結衣でメイクした顔よりも遥かに輝く今の表情に、

なるほどと自惚れてしまう。


通常、平凡な女の子は『お前は自分の良さに気付いてないんだ』と、男の子が恋しく想うばりに無垢なものとされている。

残念、平均的な女子高生という生き物は、良くも悪くもある程度擦れていてこそ普通なのだ。

多少なりともナルシシズムがあるモンだ。そう、結衣にも……けれど、それはきっと微笑ましいもの。

今日も一つ、自分を好きになれた気がした。
明日を好きになれる予感がした。