揺らぐ幻影


しかし、奥の魔法はちっとも結衣の願いを考慮してやくれなかった。


なぜならアイラインは茶色のリキッドペンで申し訳程度に細く引けばいいとか、

目尻に乗せるアイシャドウも、いつも黒にしているのに、薄いブラウンをぼかすだけでいいとか言うのだ。

なんでも色白だから黒は不自然なんだとか。


ハテナだ。半信半疑もいいとこだ。

女の子はパチパチ目、元が良い人には理解できないのかと卑屈なことを思った結衣は曖昧な返事だけを繰り返し、

奥に頼んだことを後悔したどころか、すっかり諦めていた。


そんな弟子に気付かず、師匠は丁寧にメイクテクニックを伝授していく。


「まつ毛。上下に透明マスカラ一回塗るんだけど、この時歯間ブラシね。

コームより良いよ。ダマに引っ掛かってまつ毛抜けるでしょ?」

内心役立つ情報かもしれないと食いつきかけたが、付けまつ毛もしないし黒リキッドを省かれた時点で、

やはり結衣は可愛くなれることを放棄していた。


いつからスッピンが苦手になったのだろうか。

芋ハンコ教室に通ったりシュシュを手作りしたりなんかする、

無農薬野菜が売りのカフェで働く感じのお姉さんたちは、

下手したらファンデーションすら塗ってなさそうなくらい健康的な美がある。

それがまたオシャレで、着飾らない着飾り方が上手。

厚塗りしなくてもキラキラできる人が羨ましい。


なんだか装飾しまくる自分が恥ずかしくなったけれど、でもそれは自信を持つためで……

ああ、だめだ、深い考え事が結衣は苦手だ。


「下まつ毛は透明だけ。上は普通にマスカラ重ねて。また歯間ブラシ。

そんでホットビューラーで毛先をくるんとね。撫でる感じでいいよ。

よく元からって言うけどアレ横から見たらぐるんって不自然だし、カーブする分短く見えるから損。

結衣ちゃん素顔が似合うから、だからね、ビューラーは……長さ重視なら毛先だけクルンで良いと思う」


へえ、分かった、そうなんだ、の三語を扱うのみ。
されるがままに結衣は奥に顔を預けていた。


頑張ることがまつ毛の量だと思っていた。
でも、師匠に言わせれば間違いみたいだ。

なんだかオシャレというカテゴリーがよく分からなくなってきた。