揺らぐ幻影



《今日休む。ごめん仮病。放置プレイで》

愛美と里緒菜に送ったメール通り、結衣はずる休みを決行した。

そう、片思い中の女子は、学校よりも優先させることがあるとされている。



「私そんっなダサい?」






《一生のお願い。ビフォーアフターして下さい》

何事も人任せの結衣は敬愛する人物にこのような依頼文を送りつけ、

テスト前だというのに無理やり休ませ、厚かましく人様のお宅に押しかけておきながらも落ち着かない。


というのも、オシャレな人は個性豊かな都会的デザイナーズマンションに住んでいるという先入観のせいか、

まず師匠の自宅が歴史感漂う和風建築な点が驚きだったからだ。


玄関には恐らく立派な松の木があり、わびさびは知らないが石畳のアプローチや横の引き戸など、非常に趣があった。

そして畳の個室は野暮ったくなく、オーナーが独自の目利きで買い付けている雑貨屋さんのようにアジアンテイストにまとめられ、

結衣は和室も良いもんだと感心した。

どうしてアジアンテイストはウケを外さないテッパンなのだろう。


「ダサくはないよ。流行り上手く取り入れてるし? ただ雰囲気が勿体ない、かな?」


尊敬する奥の言葉は遠慮がちに核心をつく。


  雰囲気……?

オシャレは好きだ。
しかし、センスがあるのかと問われたら口ごもってしまう。

ただ断言できるのは、結衣の部屋が和ならば、こんな風にオシャレ感を演出できない。

畳を台なしにさせる自信があるレベルだ。


「任せて」と、肩を揺らして笑う奥は、今日もぷっくりしたポンパドールが決まっている。

結衣が前髪を上げられないのは、おでこ全開だと目元メイクの雑さが浮き彫りになるし、

眉の形が美しくないのがバレるのと、微妙に離れ目を強調したくないためだ。


  奥サマって丁寧だよね

  まつ毛ダマないもん


どうして美人は手先が器用なのだろうか。

また彼女ならば、マジパンで綺麗な花束を作ることだって可能なのだろう。


歳を重ねると、子供が喜ぶお菓子を食べなくなるのは何故。

好きなのに避ける不思議は分からない。
結衣は近藤に近づきたいし、いっそ追い越したい。