揺らぐ幻影



「――……はあ?!」

さすがに身内にはからかわれたくない。


中二で初彼氏が居た姉が結衣の頃、おおよその男女のプログラムを済ませている。

つまり、いまだに手さえ繋いだことのない妹を小バカにしているに違いない。


「好きなんだー、どうなの? 顔は? 性格は?」

そう、例えば仕事で疲れたストレスを、こんな風に妹をいじることで発散させる。

  意地悪、性格悪っ

  ビッチめ

ぷっくりとホッペを膨らませ睨んでみせるが、効果は無に等しいようだ。

お天気アナウンサーのお姉さんが、花粉についてあれこれ論じているTV画面、

コメンテーターの意見を鵜呑みにしやすい結衣は、マスコミに躍らされるタイプなのだと自覚しているからこそ、

偏った情報の意味が分からない。

学校の先生が新聞やTVニュース番組は最低二つを見比べろと口をすっぱく言う理由の根本は知らない。

難しいことは苦手だ。


「あー、も、マニキュア! はみ出たじゃん!」

必死で話をずらそうが、姉は鼻歌を奏でながら結衣のカールキープ剤でガッチガチに固まっている毛先を一掴みした。


そして、おかしなことを口にした。




「お姫さん、頑張りすぎて不細工決定」




何を言われたのか、謎は迷宮入りだ。


なぜなら可愛くなるために早起きをして着飾っている今、

つまり、すっぴんよりブスになるはずがないではないか。


愛美が彼氏と別れていたと言う報告をされた次に衝撃だ。

今年の上半期ニュースランキング実質二位になるだろう。


あんぐり口を開けっ放しで、同じ血をした女を見上げるも、

さっきまで疲労感漂わせていた彼女は居ない。


「よっく鏡見てみなよ、あんたの巻き方リアルに必死。結衣ねー、結衣の化粧は勘違い。

かーわいくなーい、痛いジョシコーセーの象徴、友達に笑われないの? 鏡見てんの?」



「……へ、ん  ?」


茫然としている結衣をほっぽり、当然と一言だけ零すと腰を上げ、

姉は更に「接近戦で惚れさせる化粧しなよ、おやすみブス姫」と続け、洗面所へと消えた。


それは激流で、余裕で巻き込まれた結衣だけども、溺れたくはない。