揺らぐ幻影

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鳴いているだけで歌いはじめたと友好的に言われる小鳥の合唱が始まったばかりのまだ夜が残ったままの薄暗い室内を歩くのは、

コミュニケーションには外見万能説を信じた結果のメイクもヘアもばっちりな女子高生だ。


人脈が広く顔が利く秘訣は、友人の友人の友人の他人の域の集まりでも参加する厚かましさなんだとかで、

情報通な里緒菜の友人の知人の先輩がシュミレーション室を使うらしく、

『服飾の専門に行きたいから見学をしたい』と言うと特別に許可されたらしく、

普段立ち入りが禁止されている服飾コースの校舎に侵入できることになった。


そこは近藤の世界、未知の世界に触れられるなら幸せだ。

従って、結衣は朝からご機嫌で、おめかしに気合いを入れ早起きをして今に至る。


こだわりが薄い簡素なリビングで、

登校するにはたっぷりと時間に余裕があるため、爪先が剥げたフレンチネイルを塗り直すことにした。


見た目を飾る意味を、あの人は知らない。

けれど、昨夜メールで頑張れと言ったのは“あなた”だから、

惚れさせたのは向こう、好きにさせたのは向こう、ときめかすのは向こう。

全部全部責任転嫁してしまえば、結衣が頑張るのは近藤のせいになる。

それを知らないとは言わせない、彼は無垢な幼児ではないのだから許されない。


カーテンを開けようとも差ほど彩度は変わらない。

控えめな音量でつけたTV画面には、ニュースの原稿を読む女性が現れる。

時事ネタは日常会話を揶揄する際にスパイスとなるので、

朝のお堅い報道番組は見るし、新聞の見出しで世間の動向を仕入れる結衣だが、

所詮半可通、上っ面をなぞり笑いを狙うことが女子高生イズムである。


ベージュ色のヌーディーな爪は、大人の女っぽくてお気に入りなのだけれど、

なぜかムラになりやすく、また二日もすれば何かしら剥げやすいのが欠点だ。

ファンデーションを唇に塗って赤みを消すテイでポリッシュを塗る。

つんと鼻にくる臭いも美は我慢の探究心に沿っていて、苦にならない。

猫背になって一生懸命作業に没頭していた。


無心になる結衣だけの世界へ、

突如、「はやー」という声がした。