揺らぐ幻影




食べ終わったハンバーグの鉄板、チキンナゲットのなくなったバスケット、

氷の溶けたオレンジジュースや、炭酸の抜けたサイダージュース、とっくに冷めたココアが並ぶ六人掛けの机、


ファミリーレストランに集う女子グループは、たいてい恋の話をするためにドリンクバーを利用する。

『最近彼氏が冷たくてー避けられてんのかな?』、『タイプなんか好きになった人がタイプだよね』、

『もう高三だし真剣に付き合いたいんですけど』、『恋愛したいー出会いがないー』など、

彼女らは結論を出さずにお喋りを繰り広げるのがお好きだ。


無限に語る何も生産しない長話は、いくつになろうが女に生まれた特権で老人会の方々にも見られる。


仕事中、聞き耳を立てなくとも聞こえてくる女子高生の象徴的な談笑は魅力的で、

せひ同席し、近藤について相談したり恋愛観を披露したい結衣だ。


地球は回る、色が減る夜になれば奥行き深く感じるのは勘違いなのだろう。

アルバイトの帰り道、深夜前の暗さは気味が悪く、

昼間は気にしないのに犯罪者が居るのではないかと過剰に構えてしまうのは、

一本裏に入ると、外灯も人通りも少ないせいかもしれない。

ぼやけた明かりが一定の間隔で辺りを照らす。


耳を澄ませば聞こえる遠くの笑い声や、窓から漏れるTV画面の明かり、

温かな家族の穏やかな日常が垣間見れる夜道は、もし自分が一人暮らしをしているとすれば、

非常に切なくなる光景になるのかもしれない。


《ケーキありがと。近藤くん私服オシャレ》

右手にハンドル左手に携帯電話を持ち、カチカチ文章を連ねる。

目線は文字盤にいくため、感覚で運転するから車輪の向きが定まらず、

頼りないライトが地面をぼんやりと揺らす。


《どうもくん。クッキーんとこ美味しかった。チーズケーキ好き。オシャレ?笑 全然、日々迷走。てかあれ近所着》


  良かった、嫌いじゃないんだ

一安心した。好きなお菓子をストライクで贈ることができたのなら一歩前進、

こんな風にシャボン玉や玩具の車など些細なことを重ね、

彼の岸と己の岸をこつこつと繋げていきたい。

どこかにある灯台を道標にして、昨日より一時間前より、好きな人に近付きたい。