揺らぐ幻影


見えなくなった人に言えない言葉たちが、喉の中央で暴れ出す。


  自分から美味しかったとかなんとか言えよじゃね?

  ……何、終わり?

  てか普通貰った日にお礼メールするでしょ!

  嫌いな奴にもマナーでしょ、年賀状返すじゃん!


前向きな決意も、近藤の背中が消える頃には真っ逆さまに転がり落ち、

綺麗に三日月を描いていた唇は、

途端にひっくり返り口角を下げて悲しみを帯びたかと思えば、怒りに震え出した。


  なに今の、なにっあれ何なのっ、なに、なんで無感想な訳!

  なんとか言うのはそっちでしょ、礼儀じゃん

  なんで私ばっか話さなきゃなの、


なんだかやりきれない。

告白をしたのに状況は変わらないし、

いいや、苦労して流暢な会話が成立する仲になれたはずが、たちまち接点が薄れてしまったし、

散々アピールしている結衣がまだ行動をしなければならない事実に、不満が爆発する。


彼からアクションを起こしてくれてもいいではないか。


  もっと……、美味しいね、とか、なんか

  普通あるでしょ

片思いは押し付けがましい行き場のない感情を生産するだけではない。


「食べてくれたんだってー! やった、どしよー!!」

ころっと反転。
何にでも幸せがる気持ちがとめどなく溢れるのが、初恋のきまりごとで、

恋愛ビギナーの七変化は、このように様々なテンションになることだと言える。


誇張して拍手をする愛美が、良かったねと笑う。

失恋した彼女に遠慮することは失礼だろうと、シリアスに結衣は思った。

応援するために秘密にしていた善意を無駄にしたくない。

だから子供のふりをして、『アタシ好きな人が居るの』と、

厚かましくはしゃぐ方が一番しっくりくる。


きゃぴきゃぴオーバーに跳ねる度に、『見える』とクラスメートに注意をされたが、心配は要らない。

なぜなら一分丈の黒いフリルが可愛いペチパンツを履いている。


ジャージはガサツだし、スパッツはガッペムカツクの人になるしで、

ショーパンのように見えても相手が平気なタイプは重宝すると、里緒菜に教わった。

女子高生はくだらないことを学ぶのに忙しくて楽しい。