揺らぐ幻影


「――…‥ はよ」

告白をしたなら、意識して相手がある程度ぎこちなくなるのは想定内だった。

しかし、本当は理解していなかったのかもしれない。


沈黙。挨拶以外を返してくれないと、話しづらい。


「あ……の、  ……、ケーキ食べ、たりー?  ――したり、……チョコ」

内容を推敲する前に、結衣が聞きたい直球をしどろもどろ言ってしまって、

後悔は間に合わず、「……うん、」と、頷くだけの近藤に戸惑ってしまい、

彼女が音を出す番なのに うまい具合に単語が浮かばない。


  うんって何、イエスマン?

会話はお互い言葉数を増やさなくては始まらないと、小学生でも知っている。

それを『うん』の二文字で片付けられては、広げようがないではないか。


なんだか『そうなんだ』と、中身のないメールを受信した時のようだ。

REは付いていないし、ちゃんと文章を打ってくれているけれど、

そのままを放り出されたみたいな気持ちに似ている。


「……。  あー……、おいしかっ、た? ……。――普通かな、?……チョコ、美味しい、はず」

新人フードレポーターのように、どぎまぎと下手くそに尋ねていた。


「ありがと」

お礼を言う近藤が、ふわりとした前髪を親指と人差し指で摘み分け目を造る仕草を結衣は黙って目で追った。


  、ありがと?

美味しいと普通、どちらにも当て嵌まらなかったから、

ごまかすためにありがとうと言ったのだろうか。

なんとも曖昧で卑怯な返事で最低だ。


「「……」」


会話がなくなる。無音になる。
間の取り方は難しいものだけれど、これはさすがに溜めすぎだ。


沈黙を破ったのは、「洋平ー休み時間! 終わる」という市井のかけ声だった。


それは思いの外遠くだったので、好きな人の友人はやはり結衣に気を遣ってくれているのだと感じられた。


「ん、また」

「あ……、うん」

不慣れな英語よりも弾まなかったお喋りを覚えてくれていますようにと、

願うばかりではなくて、叶えなければならない。


ふんわりとした髪にいつか手を通せるただ一人の女の子になりたい。

それは夢、目標。
そして頑張れば きっと現実。