揺らぐ幻影


お昼休みは誰かのカップラーメンや揚げ物、色んな食べ物の匂いがまぜこぜで、

教室の中は表現しづらいが、よく言えば飲み屋街の換気扇の前に立っているみたいだ。


「ヤケド気をつけてー」

購買で不人気なロールパンを頬張っている少し離れた場所にいる隣人に、続けて結衣は注意勧告しておいた。

フォンダンショコラのポイントは、やはり何と言ってもとろけ具合で、

普通に食べるのは勿体ない。


「大塚にもー?、うちらだけじゃないとかヤキモチ」

口の端に付いたチョコをティッシュで拭う愛美は結衣に苦言を呈した。

社交辞令に渡したと言っているのに、二頭追う魔性と野次る里緒菜に今度は全力で違うと否定した。


冗談が通じず真に受ける人はツマラナイと思う癖に、

結衣ときたら二人のからかいに対して真剣に返事をしてしまっていて、

だから恋をするとらしさがてんでなくなると実感する。


彼に渡したのは日頃の感謝を込めただけの義理チョコであり、

まるで三年以上行っていないのに、美容院から律儀に年賀状DMを送ってくれるような感じで、

他意はなく問題ないと、呑気にお弁当を片す結衣には、

大好きな愛美の陰影が見えていなかった。



開いた窓に飛び込んで太陽の光を含んだ角のない風が廊下にさ迷っている。

一本街路を行ったり来たり。


あんパンと牛乳の役目を果たすウサギの小銭入れを掴んでいる結衣は、

探偵気分でF組の入口に目を光らせていた。

例の人物が毎回ジュースを買いに行く時間帯ならチェック済みで、

予想通り暗闇で葡萄酒を見たような色をした髪がふわふわと現れた。


  ドキドキしないで

彼氏にしか見せたらいけない範囲にまで真っ白な内腿が覗く。

そこまで彼女がスカートを引き上げてしまったのは、緊張でついつい裾を握りしめていたせいだ。


「おはよー」

おへその辺りで空中ブランコを楽しむのは、可愛いリボンを付けたウサギちゃん。


ちょうど一年くらい前にリボンが流行り、

ミーハーな結衣も当然購入したが、いざつけるとたちまち恥ずかしくなった。

勇気がいるから難しいオシャレ――近藤が可愛いと思う女の子だけがカリスマになる。