揺らぐ幻影




か細い風の音は、口笛が吹けない人の抜けた音色とは呼べない吐息にそっくりだ。

建物は偉いと思う。太陽に照らされ雨に打たれ、風に煽られ剥き出しの癖に強い。

夏は涼しく冬は暖かな家の中で守られている癖に、人の心は弱い。

大人になればなる程、喜びより、悲しみを感じ取る機能が優れてしまうのは何故。


幸せに慣れて嬉しさを得ることが減る癖に、昔は気にしなかった些細な点、辛いことには過敏になる。

泣きたいからわざと感傷的になるのだろうか。


また何も知らない子供の頃は、身体全体で感情を表現していた癖に、

どういう訳かランドセルを卒業する頃から隠すようになる。


笑い顔に嘘が増える理由は何?

嘘泣きを覚えて愛想笑いを浮かべて、それが正しいと疑わなくなる日が、立派な大人、

外と内の自分にジレンマを持て余す結衣は、当然まだ子供なのだろう。


市井は大人? 里緒菜は大人子供? 愛美は大人子供? 近藤は子供大人?――ああ、一人だけがガキだ。


寒色系は空間を広く認識する錯覚が働くらしいと選んだ薄い水色のシーツの上には、

ショートパンツから剥き出しになった白い足がだらしなく投げ出されていた。


「、はぁ」

結衣の肌は真っ白のため、小学生の頃はクラスメートの男子に雪女と呼ばれていた。

ダイレクトなあだ名に当時はコンプレックスを抱いていたが、いつの日か色白な肌が好きになっていた。

ただ、悪口ではなく褒めているのだと判明したのはつい最近なのだけれど。


そんな風に心境の変化なんて本人も気付かないのだから、

次第に近藤だって彼女を好きになるかもしれないではないか。


「……はあ」

何回目のため息か分からない。正の字は八個をこえたかもしれないし、まだ一つ目なのかもしれない。

長い息を吐き出す原因、今回は煉瓦色をした髪の彼ではなかった。


「……」

  なんで、

  、言ってくれなかったのかな

夕方に聞いた愛美の話は帰宅しても尾を引き、食欲はなく、

眠る支度を終えた今も心を支配していた。


近藤からバレンタインについて感想メールがくるのではという悩み事なんて消え去っていて、

今、彼女の頭を占めているのは三つ。