揺らぐ幻影


人の恋愛話が楽しいのは、

『彼氏が〜』という部分を全て『近藤が〜』に変えて妄想するせいで、

とっても幸せな気持ちになれる結衣は、安上がりな女かもしれない。


嬉々として返事を待つ夢見がちな乙女に、愛美が言葉を濁す気まずそうな態度は、

恐らく微妙に昨日失恋している友人に気を遣っているのだろう。


OKされていない人に、ハッピーチョコ話が自慢に値し躊躇っていると思われる。

そんな配慮は論外で、他人を妬むまで結衣の感情は汚れていやしない。

だから、「ラブラブ?」と茶目っ気込めて古臭く冷やかしてみた。


真ん丸な球体を箸で割り、とろついた半円冷まして突いて弄ぶ。

程よく小腹に溜まるので、晩ご飯は要らない。



「愛美別れてるんだよ。」

手の込んだアイメイクのきつい目頭に手をやり、里緒菜が口を開けた。


「? なに? え、手作りヤだったの? 美味しいのになんで、」

バレンタインに破局する意味が分からない。

把握できなくて結衣は愛美を見つめるしかできなかった。


けれど、

「昨日じゃなく。先々週? 前に愛美休んだじゃん、その前の日?」

結衣は愛美に聞いたのに、里緒菜が答えた。


おかしい。親友①の破局を親友②は知っていたらしいが、彼女は知らない。今知った。


状況が掴めなくて、半円をぐるぐる回す右手だけが動く。

落ち着こうと、すっぴんでも二重なのに幅を広げる目的で貼付けている里緒菜の瞼で光るファイバー状の紐を眺めてみる。

最近はデカ目が流行りだから、ほとんどの子がカラコンをしており、

肝心な瞳からは言葉が読み取りにくくなった。


「好きな女出来たーって、そんな感じ。でも里緒菜サマに散々愚痴ったから平気平気」

「ギャグに号泣? 四日くらい愛美ん迷惑電話の嵐だったから私寝不足だったし」


「知ら、」

戸惑う心が追いつかなくて、上手い台詞が見つかりやしない。


「だって私は優しいから? 結衣に余計な心配かけたくないじゃん、あはは。

里緒菜に愚痴って本当大丈夫。死んでたけど蘇りましたから気にしないで下さいな」

笑顔の愛美を見慣れる頃には、タコ焼きがすっかり冷めきってしまっていた。