揺らぐ幻影


なんとなく興味本位で立ち寄ったお客さんには、

話術が試され、時に会話のやりとりが有効に働き購買力を煽るが、

なかなか簡単なことではない。


けれども、とある技があれば必勝で、

例えば、結衣のような年齢層には、恋愛絡みのネタを提供がベター、

馴染みある話題に学生自ら食いついてくれる訳だ。


  お姉さん乗せ上手

  私単純。

そう言われたら、もう結衣は鉢に手を伸ばしていた。

購入を決定するまでの約五分間、まるで友人かのように恋について喋れば、

店員さんは気持ち良い間合いで相槌を打ってくれるため、

美容院でカット担当の人とトークするその場限りのノリに近い感じで調子良く、

今さっき告白したことをぺらぺら話せて、

非常に有意義な時間を過ごせた。


リピーターを増やすには、悩み相談を受けることなのかもしれないと、

偉そうに論じようが、販売職の根本は知らない点が女子高生イズムで、

物を買いに来たのではなく、会話を楽しみに来る、それが接客業なのだろうと尤もらしく考えている。


「ありがとうございました」

「や、ありがと、です」

たくさんのお花に囲まれ、水やりなどお世話の仕方を聞いて会計を済ませた。


そして、去り際に「お姉さんホワイトデー頑張ってね」と微笑んでくれると、

また来たいと素直に思える不思議。


  お姉さん、か

中学まではお店屋さんでは『ワタシ』と呼ばれていたけれど、

高校に上がると『お姉さん』と呼ばれるようになるのは、

少し大人の女の人になれた気がする恥ずかしいような感覚で、

ふわふわより、ふあふあした心が唇に浮かぶ。


  可愛い

頑丈そうな袋の中で軽やかに動くお花。

生花を愛でられるようになれば、きっと立派な大人の一員と呼べるのだろう。


彼女を座らせてあげている彼氏、手摺りがないので恋人を掴む女の子、紙袋を下げてにやけている男の子、

たくさんの人の恋を運ぶ電車、

流れる景色が明日の切符を買ったかと急かす。

行ったっきりで戻れやしないなら、忘れ物がないよう確認をしよう。


ナルシスト少女の腕の中では、甘いバレンタインの香りが充満していた。