揺らぐ幻影


POPを編み出した人は店舗運営にすこぶる功績を残したとされるはずだ。

結衣はキャッチコピーに釣られるよりも、作品として捉える派で、

文体やペンの色使い、絵のタッチや写真の切り方などの全体のバランスから好きな雰囲気なら足を引き止める。

チラシ広告も同様に、言葉を読むよりも総体に惹かれるタイプで、

要するに初見のセンスが人々の関心を得て、物を言うのだろう。


可憐、気立てが良い、清楚、ふわふわした遊び心のあるそれは、まるで――


「可愛いですよね、片思いって感じじゃないですか?」

空想に舞い散った花びらの持ち主は、店員のお姉さんの声だった。


お花屋さんという肩書だけで、同性だがなぜかキュンと好感度が上がる単純な結衣は、

ケーキ屋さんやパン屋さん、ピアノやバレエの先生も女として憧れる。

世相に合った言い方ならケークサレが似合う感じと喩えたら分かり易いだろうか。


白シャツに黒パンツのスッキリした印象の制服なのに、

エプロンを巻くだけで、ふわふわっとしたオーラを感じるのは、

毛先がころんとした髪型のせいなのか、ポっと咲かせたチークのせいなのか、

オモチャ風なネコのピアスのせいなのか、はたまた声色のせいなのかは不明だ。


ゆっくりと立ち上がった結衣は、「可愛い、いいにおいです」と、決まりきった感想を述べた。

店内のお花たちを風景にして浮かんだ小柄なお姉さん、

もし彼女が結衣ならば、告白をする時には一生懸命な女子を演じるのが巧いのだろう。


「春にしては地味なんですけど、やっぱりバレンタインですからね。あはは」

「チョコレート、?」

「そーなんですチョコ、先週から一気に人気で。やっぱりバレンタインですもんね、お姉さん彼氏さん居るんですー?」


  っ、うわ

ふわりとした印象の割に、この店員さんはなかなかヤリ手だと結衣は感銘した。

というのも、接客業は、お客さんが購入予定の物のみを目的としているならば、

熟練した店員なら上手いのだけれど、

まだ経験が浅い新米の話術はあまり意味を持たない場合が多い。

しかし、販売スキルを問わないテクニックがあると、知ったか結衣は勝手に見出だしている。


それは――